豊田 尚吾
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2008年04月07日 |
豊田 尚吾
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住まい・生活 |
消費生活 |
新聞・雑誌・書籍 |
日刊工業新聞 |
半歩先を見る生活者論/倫理的消費(1)利他的消費行為に可能性
2008/04/07 日刊工業新聞 27ページ 947文字
消費とは本来、欲望の充足のために、財サービスを消耗する行為のことを言う。昨年はゲーム機の「Wii」やワンセグ携帯などがヒット商品となり、今年は健康志向商品や北京五輪関連でAV機器などが期待されている。そのような、自分の欲望だけを満たす消費とは異なり、自分以外の者への配慮を意識した消費が世の中に存在する。
例えば、採算をとることは難しくても、ハイブリッド車に乗ったり、太陽光発電装置を屋根に設置したりする人は多い。また自分に直接の利益はないのに、温室効果ガス排出削減をうたった旅行に参加したり、地域の活性化のため割高でも地産地消に心がけたりする人もいる。逆に姿勢の悪い企業の製品は買わないという人もいる。このような消費を、仮に倫理的消費と呼ぶことにしよう。
もちろん、寄付など利他的な消費行為は今に始まったことではなく、むしろ現在のような合理思考が広まる以前の方が、より広範に見られたのかもしれない。
しかし今日、倫理的消費がメディアなどに取り上げられることが多くなっている。それはエネルギー・環境問題、少子高齢化、グローバル化など、世界や日本を取り巻く環境が変化し、その課題の深刻さが認識されていることが大きな理由だ。社会のひずみが大きくなれば、その健全性を維持することに対する関心が高まり、そこに価値を見いだす人が増えてくるのは必定である。
とりわけ、環境問題は新聞やニュースで大きく取り上げられることにより、明確な課題として生活者に意識されている。その結果、「環境」はビジネスとしても注目される分野となっている。ならば生活者の認識が変われば、環境問題のみならず、ほかの社会的課題でも、自己利益を越えた積極的なかかわりにつながる可能性があるはずだ。
従来、経済学では利他や社会に対する貢献を重視する消費に関しては、例外的事象としてあまり重視してこなかった。しかし最近は、利己的な合理性というものに反するような事例への取り組みが広がっている。
倫理的消費は、生活者にとって新たな幸福をもたらすような、また、企業にとっても、社会的貢献やビジネスチャンスにつながるような、半歩先の生活者像を示してくれる。次回からは、具体的な倫理的消費について検討していく。
大阪ガス エネルギー・文化研究所主席研究員 豊田尚吾