濱 惠介
作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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2006年11月10日 |
濱 惠介
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住まい・生活 |
住宅 |
CELレポート (Vol.30) |
(社)日本建築士会連合会、講習会テキスト |
この章で取り上げるのは、既築の一戸建て住宅に手を加え、新たな空間を形作りながら改善する仕事である。概念的には「住宅リフォーム」と呼ばれる内装・設備の改装から、構造の補強、空間に大幅な変更を加え建築に新たな命を吹き込む「住宅再生」まで含む。日本の戸建て住宅は、平均わずか30年程度で建て替えられている。このことは、資源の無駄な消費と建設廃棄物の大量発生という環境への負荷を意味するばかりか、時間の経過がかもし出す建築や街並みの風格が得られないなど、大きな社会的損失となっている。
住宅の価値は、必ずしも時間の経過とともに減っていく訳ではない。劣化する部分がある一方、変わらない価値や逆に増進する価値もある。価値が増す例として、モノが古びてはじめて出る味、慣れ親しんだ空間配置、使い勝手の分かった建具や収納、それ以上変形しない保証付きの木材などがある。さらには、落ち着きや全体の調和など、長い時間を経て生まれた精神的な価値も存在する。家中すべてがまっさら、というのはむしろ不自然ではないか。新築になく既築の改修が持つもうひとつの意味は、空間や見え方を実物で確かめられることである。設計図や模型で想像するのに比べて絶対的な強みと言える。目の前にある状態を出発点として計画すれば、出来上がりの状態を確実に予測することができる。さらに、不要になった部材をうまく再利用したり、本来の用途と違った目的に転用したりするのは面白い。資源の有効利用と廃棄物の削減という物理的な利点に加え、知的なゲームのような楽しさ、歴史の継承という価値がそこに見出される。このように考えると、理想の住まいづくりには新築だけでなく、今ある住宅を使い続ける改修・再生にも大きな可能性がある。さまざまな制約条件と格闘しながら知恵を絞り、他にはない独自性を発揮することで、これまでの暮らし・使い勝手と連続した新たな生活空間が生まれることだろう。このように、改修・再生だからこそ得られ、新築にはない価値を大切にしたいものである。住宅の改修・再生は、建て替えに比べ環境へ及ぼす負荷(悪影響)が小さく、「環境の世紀」と呼ばれる21世紀における住宅建築に不可欠な流れと言える。