濱 惠介
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2004年06月22日 |
濱 惠介
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都市・コミュニティ |
都市システム・構造 |
新聞・雑誌・書籍 |
日本健康住宅協会、KJKニュース2004夏号 |
超高層住宅と心の健康
20階建て以上の「超高層」と呼ばれる住宅は、居住の都心回帰とともに建設が活発である。超高層住宅が珍しかったころはその是非が議論されたが、今はそうでもない。通勤や買物に便利な立地で、窓からは遠くの景色が見晴らせ、蚊も上がって来ない。寒暖の差が少なく、空気質は常時小風量換気で確保されている。特に健康を阻害する要因は見当たらない。
しかし、このような見方は物理的・肉体的な側面であって、心理的には気掛かりである。住む場所が大地から遠く離れることで、居住者は外へ出る回数が減る。エレベーターに一人で乗れない小さな子供は、親がついてきてくれない限り外へ遊びに出ることができない。
母子保健学の織田正昭先生によれば、この制約によって子供は遊び相手との接触が少なくなり、母親との密着度が増す。その結果、自立が遅れる傾向にあり、自発性に乏しい性格になったりするそうである。単に発育の遅れだけで済めばよいが、人格形成にまで影響が残るとしたら深刻なことだ。心の健康は見えにくい。
問題は子供にとってだけではない。例えば独り暮らしの高齢者は、外界との自然な接触を絶たれ孤独感が増幅される。超高層の場合、住戸と共用空間をつなぐ開口部は鋼製の防火扉一枚だけの場合が多く、社会的に遮断されがちである。プライバシーや防火性との引き換えに精神的な健康を損なう結果になってしまう。
昔の長屋は超高層住宅と対照的である。長屋は低層で高密度居住を実現した。近所で助け合う暮らし方があり、人間関係は濃密であった。防火は火の用心で、プライバシーは気配りでカバーし、子供たちもコミュニティーの中で育ったと言われる。
現代の都市に超高層が避けられないと言うのなら、住宅の建設・供給者は少なくとも子育てに適さないことを説明する道義的な義務があると思う。また、超高層住宅に住もうとする人はそのことを知ってから契約してもらいたい。すでに住んでいる人はその弱点を補うために、子供たちを外へ連れ出すことを心がけて欲しい。高層階居住が必然的に持つ問題を知ることで、心の健康阻害を最小限にとどめなければならない。