弘本 由香里
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2004年03月26日 |
弘本 由香里
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都市・コミュニティ |
都市居住 |
新聞・雑誌・書籍 |
(財)都市未来推進機構「都市未来通信」2004年3月号 |
民の力の象徴としての長屋 貞秀民
幕末の大坂のまちを鳥瞰した風景画、五雲亭筆「大坂名所一覧」を見ると、画面一面に碁盤目状の市街地が広がり、町家の瓦屋根が碁盤の目を埋めるように規則正しく並んでいる様に圧倒される。表通りに面して、端正な表情を持つ、長屋建ての町家としての借家がずらりと並び、路地を入ると小さな裏長屋が軒を連ねる。そういうまちの構造が、生活・産業・文化の受け皿となり、近世大阪の活力を支えていたのである。
近世から近代へ、日本社会が大きな構造転換を迎えた時、東京では武家地を基盤に、官の力で近代的都市づくりが進められていったのに対し、大阪では町人地を基盤に、民の力で近代的都市づくりが模索されていった。しかも、その町人地の大半が、近世の繁栄を支えてきた長屋で構成されていたのである。
近世大坂の町人たちによって形成された質量ともに豊かな町家・長屋の歴史的系譜が、近代以降の大阪の都心から郊外に及ぶ都市住宅としての長屋の豊かな発展につながっており、一般的に長屋に対して抱かれがちな画一的な貧しいイメージとは一線を画し、大阪における長屋の驚くべき多様性のバックボーンになっている。
こうした大阪の都市史をひもとくと、官の側・支配の側から文脈ではなく、民の側・そこに住み・暮らす主体の側から、まちづくりのシステムを組みなおしていく物語として、都市再生を捉える必然性が見えてくる。
今、大阪市内の長屋再生が話題を集めている。大阪長屋の歴史特性と再生ムーブメントを、もうひとつの都市再生という視点で見つめてみたい。
ソーシャル・キャピタルの形成へ
長屋再生の代表例として注目を集めている都心部、空堀商店街界隈長屋再生プロジェクト(からほり倶楽部)の活動の一端を紹介しながら、その意味を読み解いてみよう。
大阪城天守閣から約2?南に下ったあたり、上町筋から谷町筋をまたいで松屋町筋まで、上町台地をダイナミックに東西に貫く商店街が通称「空堀商店街」である。