弘本 由香里
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2004年03月25日 |
弘本 由香里
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住まい・生活 |
住生活 |
新聞・雑誌・書籍 |
大阪府立女性総合センター『DAWN』2004年春号 |
一昨年秋、南ドイツを訪ねた際に、たまたまシュタイナー幼稚園を見学する機会を得た。文字通り、ルドルフ・シュタイナーの教育理論を実践する幼稚園だが、その理論と実践の根本に、個々の人間の成長を、人と人、人と環境との関係性の中から、丁寧に紡ぎ上げていく思想がうかがえ、なるほどと深い感慨を覚えた。
幼児期に子どもたちが身に付けるべきことは何か。生活の基礎、つまり人間が生きていくために不可欠の力を身に付けることだという考えがある。もちろん、表層的な技術をあれこれ教え込むわけではない。生きることの原点に立って、子ども自身が、個としての自分の存在とその周囲との関係を体験的に把握すること。言い換えれば、頭と心と体が全体となって生きるという実感を、生活とのつながりの中で体得すること。それが、幼児教育の第一の目標として設定されている。
そのためのプログラムが、実に丁寧に工夫されている。例えば、空間を感受する力を養うこと。そのために、木枠や木の実、綿や毛糸、毛皮や布など、自然素材からつくられた様々な小道具が遊び道具として用意されている。子どもたちは自然に遊びの中で居心地のよい空間のつくり方や、さまざまな素材の使い方や肌ざわりを体全体で学びとっていく。
また、自然の循環と身近な暮らしとの関わりを実感できるように、部屋の一角に季節のコーナーが設けられ、草花や野菜や果物や穀物など季節の恵みが飾られる。毎朝この季節のコーナーに集まり、蝋燭を灯したテーブルを囲み、静かに先生のお話を聞くところから、子どもたちの一日がスタートする。暮らしの一こまに、心を落ち着ける時間を持つこと、そのかけがえのなさを心身に刻んでほしいという願いも込めたひと時である。