豊田 尚吾
作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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備考 |
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2001年11月01日 |
豊田 尚吾
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住まい・生活 |
消費生活 |
新聞・雑誌・書籍 |
2001年度・東洋経済・高橋亀吉賞受賞(佳作) |
1.はじめに
消費の活性化とは、生活の向上に資するように、消費の「質」を高めることである。経済の停滞が深刻な、昨今の日本において、消費の活性化は、景気の改善と直結して考えられがちである。しかし、消費には「有効需要」「販売」「使用」という3つの役割がある。拙稿では、生活者の立場から、消費の「使用」という役割が消費の質向上に重要と考え、それに焦点を当てる。
具体的には次節で、消費が持つ、3つの役割の意味と目的を明確にする。第三節で、それらに取り組むための方法を概観した後、「使用」としての消費を検討することの重要性を論ずる。第四節では、消費活性化に必要な、消費する能力と倫理性の役割を導き出す。そのために、潜在能力およびアノマリーという概念を用いる。第五節では、具体例の検討を通じ、企業やNPOとのコラボレーション、コミュニティとのコミュニケーションが有効であることを主張する。最後に、イノベーション誘発を通じた「有効需要」「販売」への効果を考察する。
2.消費が持つ3つの役割−「有効需要」「販売」「使用」−
消費には、景気に直結する「有効需要」以外にも重要な役割がある。それらを考慮しなければ、消費活性化の議論は深まらない。本節では、消費の持つ役割を3つに分類し、その意味と目的を明らかにする。
第一は、消費の「有効需要」としての役割である。政策担当者やメディアの関心は、消費の取引としての機能に向けられている1。「有効需要」としての消費が持つ意味は、それが波及効果を生むということにある。マクロの経済活動を活発化させることが目的であるため、問題であるのはその「額(量)」である。第二は、消費の「販売」としての役割である。生産者にとって、販売としての消費は、企業活動におけるキャッシュ・イン・フローという意味があり、目的は収益の拡大である。販売も、大まかに言えば何が売れたかよりは、どれだけ売れたかという、「額(量)」が重要である。しかし、後に述べるように、マーケティングの世界において、現在、企業は顧客との交換による相互利益を重視し、さらに、顧客との関係をより積極的に創ろうとしている。従って、販売の「内容」も、量と同様に重要になりつつある。そして第三に、消費の「使用」としての役割である。生活者にとって、消費は「善き生」を営むための、最も重要な手段の一つである。