前市岡 楽正
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研究領域 |
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1996年08月31日 |
前市岡 楽正
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住まい・生活 |
その他 |
学会論文 |
神戸大学・国民経済雑誌(第175巻第2号) |
バブル経済期には労働時間短縮(以下、時短と略す)の必要性がしきりに強調されたがその後の不況が長びくにつれ、時短を求める声は次第に弱まり、現在に至っている。現実の労働時間の推移にも下げ止まりの気配がみられる。こうした事情は第一次石油危機の時期にもみられたものである。経済「危機」が到来すると、目先の状況に目を奪われて時短が等閑視される大きな理由は、その意義が十分に理解されていないからであろう。 時短は、単に労働条件の向上の問題ではないし、経済的豊かさとのバランス上追求されるべきものでもない。大きくいえば、それは経済や社会のあり方についての路線変更である。こうした認識のもとに、時短の意義を考えてみたい。
本稿は3つの部分から構成される。?では、短縮されるべき労働時間の現状をみる。その際、生涯労働時間の重要性が強調される。?では、時短の目的は何かを考える。そして?は、時短の現代的意義の検討に当てられる。
?. 長時間労働時間の現実
(1)年間労働時間
戦後日本の労働時間の推移は5つの時期に区分できる。敗戦から朝鮮戦争勃発(1950 年6月)までの混乱期、それ以降1960 年までの労働時間延長期、1960〜1975 年の労働時間短縮期、1975 年〜1988 年の時短停滞期、そして再び時短が進んだ1989 年から現在に至る時期である。戦後のピークである1960 年の年間労働時間は2432 時間であったが、1995年のそれは1909 時間であり(労働省毎月勤労統計。従業員規模30 人以上、調査産業計)、35 年間で21.5%短縮されたことになる。
こうして達成された現在の日本の労働時間の水準をどうみるべきだろうか。『労働白書』は毎年、製造業生産労働者の年間労働時間の6か国比較を掲載している。日本の長時間労働が問題とされ、政府が経済計画に年間1800 時間の目標を掲げた1988 年(時短停滞期の最後の年)の数字は、日本2189 時間(100 )、アメリカ1961 時間(90)、イギリス1962時間(90)、ドイツ1642 時間(75)、フランス1647 時間(75)であった。一方、1993 年のそれは、日本1966 時間(100) 、アメリカ1976 時間(101) 、イギリス1902 時間(97)、ドイツ1529 時間(78)、フランス1678 時間(85)となっている(( ) 内は日本=100 )。