情報誌CEL
本の万華鏡“生活者にとっての減災”を紐解くヒント
作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
カテゴリー |
媒体(Vol.) |
備考 |
2010年01月08日
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森栗 茂一 |
都市・コミュニティ
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まちづくり
地域ガバナンス
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情報誌CEL
(Vol.91) |
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本書は、シリーズ「災害と社会」の一冊として、「巨大災害リスクのガバナンスと市場経済」の副題で2008年に出版された。著者は防災科学技術研究所の特別研究員を経て、現在、阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター研究副主幹である。
防災というと、被害軽減のためのインフラ整備とその費用対効果や、インフラ活用や教育だけであった。しかし、災害は社会の仕組み(課題)を短期的にも中長期的にも可視化する。私たちが災害から逃れえないとするなら、低成長・人口減・高齢化のわが国で、いかにその被害を減らすのかという減災論が必要となる。
同じ災害でも、途上国と先進国とでは人的被害の量が大きく異なる。また、災害で生き残っても、事後の生活再建、地域の復興を考えると、その目標をどこに置くのかは議論が分かれる。弱者救済論は、一方で自助努力(自己責任)論と、かみあわない論争をくりかえす。公助でもなく自助でもない共助だというが、その方法と目標が示されねばならない。本書は減災の目標を「被害軽減」から「尊厳ある生の保障」に移して再定義している点が、画期的である。
たとえば、震災直後の義捐金、支援物資による贈与経済が、地域経済の再始動にブレーキをかける。贈与から市場への過渡期における、「弁当プロジェクト」のような仕掛けが必要だと主張する。中越沖地震では、地元の鮮魚商組合と料理屋、寿司屋、食堂、飲食業組合が連携し、仕入れから調理、配送までを分担して、被災者、復興作業員の弁当を作り、市場を始動させた。そのなかで、共同の意識が芽生えた。被災直後の贈与経済以後には、自立して尊厳をもって仕事をする生活人(尊厳ある生)=共同体の利益を、市場を通じて再構築するこうした取り組みが必要であろう。
通常、災害直後は復興特需を見込み、贈与経済のなかで悶着する被災住民を横目に、防災施設や再開発など大型プロジェクトが導入される。しかし、こうした復興期における利益は、その89・4%が移出利益という(阪神・淡路大震災の場合)。さらには、低成長下ではその投資回収が難しく、開発プロジェクトにのって住居や店舗・工場に投資した被災者が苦しみ、地域経済が長く疲弊し、再開発が空室だらけとなる。これは目標を人間の尊厳においていないからである。
本書は豊富な経験から具体的な減災政策を示しているという点で画期的であるが、今後は、被災地の家計と自治体財政をみつめたファイナンス政策も含めた議論が必要であろう。