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情報誌CEL

船曳 建夫

2010年07月01日

家族とつながりの文化史

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2010年07月01日

船曳 建夫

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情報誌CEL (Vol.93)

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-人間の家族を捉える3つの視点-
 約1万年前、それまで続いてきた狩猟採集の文化から、人類は農耕牧畜による農業文明の段階へと入った。今、我々がイメージしている「家族」というのは、この農業文明の中から生まれたものである。その後さらに何千年かが過ぎ、150〜200年前から始まった産業文明により、我々の生活の仕方やそれに伴う家族についての価値観も、すべてが劇的に変化してきた。しかし我々は、農業文明から続くこの家族という制度を急変させるやり方ではなく、時間をかけて少しずつ変えていき、いわば使い回しをしながら、ここまで維持してきたのだと言えるだろう。
 この農業文明から続いてきた人間の家族というものを改めて考えてみるとき、次の3つの観点から捉えることが可能である。
 第一に、家族は食糧を獲得するための生産の単位であったということ。農業に限らず、商人であっても職人であっても、家族は、ひとつの技術と資本を自分たちのものとして、次の世代に伝えていきながら存在してきた。たとえば政治というものも、ひとつの職業だとすれば、首長であれ王であれ、支配階級でさえも家の仕事として、ある価値を生産していたのである。
 第二に、家族は再生産の単位であるということである。そこには2つの再生産がある。1つは次世代を再生産するということ。子どもを産み育てて次の世代をつくっていく。農耕文明の場合は、そうやって育てた子どもが、その家がもっている資本、つまり耕作地や道具などと同時に技術・知恵を受け継ぎ、生産の単位としても続いていくものであった。そして、もう1つの再生産は、自分自身の再生産である。昼間の労働で疲れても、家に帰って食事をして眠り、翌朝になると再び昨日と同じ自分になる。自分自身の活力を毎日再生産する場、それが家族である。
 つまり、家族は生産の単位であり2つの再生産の単位でもあった。現在でも、多くの人たちはまだ家族というものをそうしたイメージで捉えているのかもしれない。しかし、現実にはすでにそこから大きく変化してきている。今では、子が親の職業を継ぐことは少数派である。多くの場合、男親が外で働いてお金を持ってくるが、家が生産の単位である場合はもう多くはない。かつて身分と職業が結びついている時代には、家族は生産の単位としての拘束力をもち続けたが、現在ではその身分制もすでに形を失っている。農業文明から産業文明に移ったときに、家族は生産の単位である必然性をもたなくなったのである。

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