豊田 尚吾
作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
カテゴリー |
媒体(Vol.) |
備考 |
---|---|---|---|---|---|
2009年01月22日 |
豊田 尚吾
|
住まい・生活 |
ライフスタイル |
新聞・雑誌・書籍 |
2010年9 月13日新規登録 |
ページ内にあります文章は抜粋版です。
全文をご覧いただくにはPDFをダウンロードしてください。
(産経新聞 夕刊(大阪)2009年1月8日掲載)
「あなたは今、幸福ですか」といった質問が、アンケートでよく使われます。厳密に言えば、個人間の幸福度を数字で比較することはできません。例えば、文化的背景が異なる他の国と幸福度を単純に比べて、“日本は経済的には豊かだが、幸福度は国際的に見て低い”と結論づけるのは早計です(表)。
しかし日本人同士など、ある程度類似した人たちの間で幸福度を比較すると、結構安定した、面白い結果が出ることも事実です。幸福に関する学際的な研究も進みつつあります。
また、同じ人が回答した、幸福度の推移(変化)を見ることには一定の意味があるでしょう。生き方セオリーの観点から言うと、時々、自らの幸福度の変化を意識するというのは、生活状況をチェックするための情報として有用です。その際、幸福度を計測するためのアンカー(錨(いかり))を持ちましょう。
どういうことかと言うと、忘れがたい経験を“基準”に設定し、それと比較して今の幸福度を評価するのです。より所となる基準があると、繰り返し行う評価数値の安定性や信頼性が増します。そのような基準(参照点)を、船を安定させる錨になぞらえてアンカーと表現することがあるのです。
非常に辛かったときを思い出し、今の自分を叱咤(しった)するという経験は誰にでもあると思います。そのような記憶も一つのアンカーです。お勧めしたいのは、辛いときだけでなく、最も幸福であった経験もアンカーとして持つことです。
人は幸福な時に感じる、社会に対する感謝の気持ちを忘れがちです。それを常に意識することは、自らの視野を広げます。その結果、現状に対する不満の原因が、自分の回りしか見ていないからだと気づくことがあります。物事を前向きに捉(とら)えられるようになり、ひいては「“今”よりもっと」といった、際限のない欲望を抑えることにつながります。
ただ、人によっては良いときと比較した現状を卑下したり、かえって不満が大きくなったりすることもあります。性格に合わせて、自分に合ったアンカーを見つけることが必要です。
(大阪ガス エネルギー・文化研究所主席研究員 豊田尚吾)