多木 秀雄
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2011年01月11日 |
多木 秀雄
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エネルギー・環境 |
地域環境 |
情報誌CEL (Vol.95) |
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−はじめに−
地球温暖化防止がいわれ、低炭素社会の実現が目指される中、木の存在が再び注目を集めている。木や森が持つ自然の力は、二酸化炭素の固定やバイオマス利用のみならず、生物多様性保全などの観点からも重要視されるべきものである。同時に、古来「木」は人間にとって最も身近な素材の一つとして、住宅をはじめとする建物や家具、道具として利用され、私たちの生活や文化とともにあった。そして、現代においてなお、木や森は人間の心の安定や心身の成長にとって、重要な意味を持つ存在であり続けている。
今回の特集では木や森が私たちの生活や社会、産業などに与えるさまざまな効用にスポットを当てながら、木が持つ力と、それによってもたらされる持続可能な生活・環境文化の本質を多様な切り口から捉え直したいと考える。
−私たちにとっての木や森の存在−
高温多湿な雨の多い気候に恵まれた日本列島に暮らす私たち日本人は古くから木や森と密接な関係を持って暮らしてきた。日本文化は「木の文化」とまでいわれる。
降った雨は森があることにより、木々の葉や幹、土壌に溜められ、私たちが生きる上で欠かせない水資源として確保され、洪水を防止する。「森林浴」が好まれるように、私たちが森に入ると、樹木が出すさまざまな物質が人間の神経系に作用し、心の安定等多くの良い作用が与えられる。また樹木は、大気中の二酸化炭素を吸収し、幹などの材の形で貯留することから、地球温暖化防止のための温室効果ガス排出削減目標達成手段としても期待が高い。木質バイオマスとしてエネルギー源としても有用である。 木の持つ吸放湿性、断熱性、柔らかい感触等により、木を用いた住宅や家具・道具・玩具等は、私たちの暮らしにゆとり、潤いをもたらしてくれる。本号においても、寺田敏紀氏より京都市における「木の文化を大切にするまち・京都」市民会議の提言についてご紹介いただいている。
−直面している問題の所在−
世界の森林においては、主に熱帯林の伐採により、アフリカと南米でそれぞれ年平均400万ヘクタール以上の大規模な減少が起きている。2000年から2005年までの5年間に、植林等による増加分を差引いても、年平均で730万ヘクタール(日本の国土面積の約2割)が減少している(『平成21年度森林・林業白書』林野庁編より)。これは、同時に、そこに生息する数多くの生物がこの地球上から姿を消している生物多様性の損失であり、また地球規模での環境問題をさらに深刻化させる事態である。