松谷 明彦
2011年03月25日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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2011年03月25日 |
松谷 明彦 |
住まい・生活 |
その他 |
情報誌CEL (Vol.96) |
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-賃金水準の向上が最優先課題-
今、日本が直面しているのは急激な高齢化と人口減少時代への突入という、われわれ日本人がいまだかつて経験したことのない巨大な環境変化である。
日本の人口高齢化率が高齢社会の入り口とされる7%を超えたのは1970年。この頃を境に高齢化率は顕著に上昇を始め、2005年には20.2%と35年間で3倍近い水準に達している。これほど急速な高齢化は世界にも例がなく、欧米諸国と比較してもその異例さが際立っている。
高齢化は長寿という点では望ましいが、長寿社会では人生の中で働く期間の割合が低下する。つまり寿命が延びるほど所得収入のない期間が増えることになり、生涯を通じた年平均所得は確実に減少する。このことがなぜ問題か。
もともと日本は、先進国の中では際立って高齢者が働く国だ。日本の65歳以上人口の男性労働力率は、29.7%、これに対してフランスは2.1%、ドイツでも5.7%に過ぎない。比較的国民の所得格差が大きいイギリス10.9%、アメリカ21.4%と、日本よりかなり低く、リタイアする年齢も日本より相対的に若い。その最大の理由は、賃金水準の違いにあると考えられる。
労働時間当たりの現金給与総額の比較では、日本を100とすると、ドイツ156、フランス131、イギリス132、アメリカ114である(※)。その賃金でどれほどの生活物資が買えるかを示す購買力平価で換算すると、ドイツ155、フランス131、イギリス120、アメリカ121。いずれにせよ日本の賃金水準は随分と低い。経済的な理由で働き続ける高齢者が日本で圧倒的に多いのも、このことに起因すると言っていい。
むろん高齢になっても働き続けられる社会は悪くはないが、高齢になっても働かなければ生活できないのは、決していい社会ではない。せめて日本の賃金水準が他の先進国並みになったら、高齢者が働き続けなくても年金問題や財政問題を解決する選択肢が一挙に増加する。より多くの自由度を持って、これからの政府や社会福祉のあり方を描くことができる。
それゆえ私は、人口減少高齢社会における最優先の課題は、賃金水準の向上だと考えている。これを日本企業の責任と役割という観点でとらえると、高賃金体質へとビジネスモデルを転換させることが、ひいてはCSRにもつながる。その理由と背景について述べていこう。
(※)2006年、製造業、為替レート換算、労働政策研究・研修機構試算