上野 征洋
2011年03月25日作成年月日 |
執筆者名 |
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2011年03月25日 |
上野 征洋 |
住まい・生活 |
その他 |
情報誌CEL (Vol.96) |
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-CSRとコミュニケーションの視座をめぐって-
例年、数十社の「CSRレポート」(表題は様々だが)に目を通すのだが、ウエッブ版も含めそのほとんどに「社会とのコミュニケーション」「ステークホルダーとの対話」などのページがある。しかし、そこに記された活動の事例や様態は多岐にわたり、まず「企業と社会とのコミュニケーションとは何か」という素朴な疑問が湧いてくる。
ちなみに2010年に発表されたISO26000のガイダンス(手引)によれば、「社会的責任に関するコミュニケーション」の章に「社会的責任に関する多くの実践活動には、内部および外部とのコミュニケーションが必要である」と明記され、その具体的な機能として9項目が掲げられている(注:ISO/DIS26000)。紙幅の関係で項目ごとの考察は省略するが、対外的なコミュニケーション活動の重要性を謳いながらも組織内への浸透策を具体的に記述しているのが特徴的である。企業のレポートに記されている「対話」の多くが、消費者や地域社会を重視していることに較べ、ISOガイダンスでは、従業員や同業組織(peer organization)など内外のステークホルダーがほぼ同等に扱われていることに留意しておくべきだろう。とくに従業員とのコミュニケーションは、きわめて重要である。その理由については後述する。
また、ステークホルダーが何者なのか、必ずしも定義があるわけではない。ISOの手引書の「まえがき」には、このガイダンスの作成に参画した6つのステークホルダーグループとして、消費者、政府、産業界、労働者、非政府組織(NGO)、そしてサービス、サポート、研究その他が挙げられている。しかし、明確な線引きがあるわけではなく、消費者と労働者、NGOなどは重層的に存在している。業種、業態、規模、活動範囲などによって対象者の重要度や措定するベクトルが異なるのは当然である。また、直接的な対話の対象者にとどまらず企業情報の二次利用者やレピュテーションへの参与者など、情報の再生産によって対象が拡散する場合も多い。このような現実をふまえて、コミュニケーションの主体と客体の位相の多様性、その行為の重層性と拡散性を念頭に置いておく必要がある。その上で「対話」の対象とテーマを再検討してみよう。