藤森 照信
2011年09月30日作成年月日 |
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2011年09月30日 |
藤森 照信 |
エネルギー・環境 |
地域環境 |
情報誌CEL (Vol.97) |
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-土との初めての出会い-
土は、20年ほど前、私が建築の設計をはじめた時から取り組んだ材料だった。
「神長官守矢史料館(じんちょうがんもりやしりょうかん)」という小さな市立博物館を、生まれ育った田舎の長野県茅野市に建てることになり、内外の壁を土で仕上げようと考えたが、改めて検討してみると、土を使った現代建築はない。少なくとも20年前にはなかった。
参考にする前例のないまま工事ははじまり、いよいよ仕上げをする段階に入ると、二つの難問にゆく手をはばまれた。
一つは外壁で、土は冬の凍結融解に弱く、普通のままに作るとまず保たない。建築材料の研究者に問い合わせても、左官材料に詳しい専門家にたずねても、凍結融解に耐える土なんて聞いたこともないし、そんな研究をしている人も知らないとの返事。
しかたなく家の冷蔵庫を使い、土とセメントを混ぜたりボンドを加えたりして実験したが、土らしい風合いをよく残す実験体は崩れるし、土らしさが減れば大丈夫だが、それでは土を使う意味がない。ようするに土と感じられる状態である限り、凍結融解は避けられないのだ。
難問のもう一つは室内で、壁と床に土を使いたいが、維持管理が難しい。土の床をどう掃除すればいいのか。確かに、掃除の度に床は削られて減ってゆくにちがいない。水拭きなど絶対にできないし。
内外の問題にゆく手をはばまれ、結局、白セメントを土色に着色し、ワラスサ(※)を混ぜ、コテで粗く塗り、その上にノリ入りの本
当の泥をハケ塗りして済ませた。
苦肉の策にちがいないが、けっこう土らしく見え、以後、建築界では、珪藻土に他の物質を混ぜた土風仕上げ材が流行るようになる。
珪藻土系の土風材料の開発には、大阪ガスが築炉用に開発した材料が転用されたと聞いたが、詳しいことは知らない。
以後、本当の土ではなく自分で工夫した土風仕上げを使いつづけて今にいたるが、その間、ずっと、土については注意を払い、あれ
これ取材もしてきた。
たとえば仕上げ用の土としてあまりに名高い"聚楽土"。秀吉の聚楽第建設の時、敷地から出た土を壁に塗り、余った土で利休が長次郎に楽焼の茶碗を焼かせたと伝えられる。以後、長次郎は"楽"の姓を名乗る。
取材をすると確かにそのとおりで、今も一軒だけ土屋さんが旧聚楽第跡の地籍で土を採ってはいるが、掘り出せる量がごく限られ、楽家に納める以外は、茶室用にわずかしか供給していないという。