田村 憲司
2011年09月30日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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備考 |
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2011年09月30日 |
田村 憲司 |
エネルギー・環境 |
地域環境 |
情報誌CEL (Vol.97) |
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-はじめに-
本稿では、土と触れ合う環境教育に関して論述し、子供たちが土壌と触れ合うことの重要性について紹介するが、まずは土壌を認識することの意味についての話から進めたい。
土壌を研究対象としている学問として、土壌学(pedology)がある。土壌学における土壌は、「地殻の表層において岩石・気候・生物・地形ならびに土地の年代といった土壌生成因子の総合的な相互作用によって生成する岩石圏の風化生成物であり、多少とも腐植・水・空気・生きている生物を含みかつ肥沃度を持った、独立の有機―無機自然体」と定義されている(※1)。この定義こそ、土壌を歴史的自然体、すなわち、「土壌体」として捉えたものである。
土壌体としての土壌を模式的に示したものが写真1である。土壌は、風化作用とともに土壌生成作用によって生成され、土壌生成作用を受けた土壌は、土壌断面(soil profile)に層を分化させ、土壌独自の形態(土壌断面形態)を持つようになる。層位分化した各土壌の層を土壌層位というが、土壌層位、つまり、土壌断面形態を認識することから土壌の理解が始まる。一般には、土壌は平面的で、どこにでも存在するもの、掘り返しても、造成しても変わらないものとして認識されている。それは、土壌を、土壌体から切り離した土壌物質として捉えていることに他ならない。
土壌は、非常に長い時間がかかって、生物的作用により地表に生成するかけがえのない天然物(歴史的自然体)であるため、太陽系の惑星の中では、生命の生存している地球にのみ存在するものなのである。その地表の非常に薄い皮の部分が土壌であり、生態系の基盤としての機能を持っている。土壌がなかったならば、人類をはじめとして、陸上のほとんどの生物は生存できないのであるが、そのことを、ほとんどの人が実感してはいない。それは、前述したように、ほとんどの人が土壌を土壌物質としてしか認識していないからである。
では、この土壌物質としての認識を、土壌体としての認識に変えるためには、どうしたらよいのだろうか?その答えは、土壌の横顔(断面)を観察することである。これが、私たち土壌学者が土壌の環境教育を行うに際して、まず、土壌断面の観察から始めていることの第一の理由である。
(※1)大羽裕・永塚鎭男『土壌生成分類学』養賢堂(1988年)