挾土 秀平
2011年09月30日作成年月日 |
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2011年09月30日 |
挾土 秀平 |
エネルギー・環境 |
地域環境 |
情報誌CEL (Vol.97) |
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-水を引くように土を塗り、詩を書くように壁をつくる-
土、砂、ワラ、水といった身近な素材で、土地の気候風土に合った居住空間を造りあげてきた日本の左官職人― その伝統を踏まえながらも、独創的な仕事ぶりが注目されている挾土秀平氏。構想を練り、デザインを考え、土の配合を工夫し、コンセプトに沿った壁を塗り上げる。岐阜県高山市の仕事場では、15人の職人を率いる親方として、企業のカレンダー撮影に使う「土壁」のオブジェを制作中だった。
本来、壁材としての土は不安定な存在であり「土を塗るのは水を塗っているのと同じ」と挾土氏は言う。水分の配合や天候で蒸発の度合いが異なり、塗るスピードにより仕上がり具合が変わってしまうのだ。
「塗ってから最低3、4日経たないと壁の表情は分かりません。その間、水が仕事をしていて、乾きが早過ぎるとひび割れるし、遅いと表情が悪くなったりするから」
言ってみれば、左官とモノの間には「自然」という《偶然性》が介在する。それだけにこの仕事は失敗といつも隣り合わせだ。
「10回のうち3回は大失敗する懸念があるけれど、残りの3回は神懸かったようにうまくいく。それがこの仕事。むろんプロなので間をとって無難に収めることもできるけど…」
依頼を受けたその地域の土を使うようにしている。建物に土地柄を反映させるためでもあるが、何よりそれが左官本来のあり方と心得ているからだ。
「その土地にあるものを使うのが一番自然。世界各地から持ってきた極彩色の土で壁を作ったら、かえって気持ち悪いと思う。天然の抽出物をいくら集めてものを作っても『自然』とはかけ離れていく」
結局、自分たちが自然にどれだけ寄り添うかが《人間にとっての自然》―と考える挾土氏にとって、これまで手がけてきた作品の多くは自然がモチーフ。「自然や人に触れて詩ができるように、自分にとって壁を造るのは詩を書くようなもの」という。
これまで本業以外に、土と触れ合うイベントやワークショップなどでも指導してきた。挾土氏自身、土を扱う技術は独学で身につけてきただけに「多くの人に土と接してほしい」との思いは強い。反面、ワークショップにありがちな?誰にでもできる?という安易な指導法には疑問を呈する。