島田 広
2012年01月05日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
カテゴリー |
媒体(Vol.) |
備考 |
---|---|---|---|---|---|
2012年01月05日 |
島田 広 |
住まい・生活 |
消費生活 |
情報誌CEL (Vol.98) |
ページ内にあります文章は抜粋版です。
全文をご覧いただくにはPDFをダウンロードしてください。
北欧のコンシューマー・シティズンシップ教育には、政府や北欧閣僚評議会といったハイレベルの機関が消費者教育についての目標を明確に定め、また具体的な教育方法についてのハンドブックを作成するなど積極的に取り組んでおり、消費者教育を消費者の社会参加を助長するための重要なツールとして位置づけていること、ゴールデンタイムにテレビで消費者情報番組が流されるなどマスコミが活用されていることなど、日本の消費者教育とはかなり異なる特徴がある。
北欧閣僚評議会は、1995年から3回にわたって消費者教育推進のための統一のガイドラインを作成しており、その最新版である「消費者コンピテンスの指導―消費者教育の戦略 消費者教育の目標および内容の提案」(2009年)(※1)では、持続可能な消費とメディア・テクノロジー・リテラシーの視点が強調されている。
また、内容や教育手法の面では、他者や自然環境との「共生」の視点が強く打ち出されていることのほかに(※2)、例えば国語、外国語、算数、理科、社会、市民教育、美術、技術、家庭科等の様々な教科で消費者教育のテーマが取り上げられている点に特徴がある。筆者が09年にフィンランドに視察に訪れた際、国語でどのような消費者教育を行っているのかを尋ねたところ、例として、身のまわりにある広告や勧誘の事例を集めて、その特徴を分析したレポートを提出させるのだという説明があった。生活に密着した課題を与えて、批判的思考力、分析力や表現力の訓練をする、実践的教育である。
総じて北欧では、コンシューマー・シティズンシップ教育が子どもたちや市民にとって非常に重要な教育として位置づけられていることが窺えるが、こうした背景には、もともと地域共同体を核とした民主的な社会を発展させてきた北欧の人々にとって、大量消費文化にどっぷりつかり主体性を失いがちな現代的消費者像が、社会にとってのある種の脅威と捉えられたことがあるように思われる。
消費者教育の社会的意義が明確にされたことで、教える体制が整うとともに、学ぶ側のモチベーションも高まり、教育効果の定着がすすんだ。OECDが09年にまとめた報告書「消費者教育の促進 トレンド、政策とグッドプラクティス」によれば、ノルウェーでは消費者教育の定着率がよく、消費者教育を受けた若い世代が消費者の権利について習熟しており、そうした若い世代のジャーナリストがメディアで消費者に優れた情報提供を行うという、よい循環が生まれているようである。定着率の低さに悩むわが国の消費者教育も、北欧に学ぶべきところは多いと思われる。
(※1)文部科学省が実施した海外調査の報告書「消費者教育の試行的実施による効果検証のための調査研究 海外調査報告書」の添付資料として和訳されている。
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/
detail/_icsFiles/afieldfile/2011/06/28/1306754_14.pdf
(※2)大原明美『北欧の消費者教育―「共生」の思想を育む学校でのアプローチ』新評論(2003年)