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情報誌CEL

後藤 玲子

2012年01月05日

本の万華鏡『集まりの学としての社会学』

作成年月日

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媒体(Vol.)

備考

2012年01月05日

後藤 玲子

住まい・生活

消費生活
ライフスタイル
その他

情報誌CEL (Vol.98)

ページ内にあります文章は抜粋版です。
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 本書は、「社会」とは何かが考え抜かれたきわめて啓発的な書である。
 消費の醍醐味は、そこに売られているものを、自分の好みで、こっそり買うことだろう。「貨幣のヴェール」とはありがたいもので、売り買いに、地位も名前も入らない。売った、買ったの関係はそれっきり、あとくされがない。市場は実にすがすがしいものなのだ。だが、そのすがすがしさの背後には、暗黙の前提がある。アダム・スミスが描いたように、パン屋は自分が納得いくようにパンを作る。あるいは、どこにいる誰かは知らないけれど、自分の作ったパンを味わう人の喜びを思い浮かべながらパンを作る。価値は消費を通じてこの世に現われ、ものは価値を残して消えていく。このように、匿名で、あとくされのない、すがすがしい市場の背後には、消えゆくものを確かな価値として世に送る、社会的・協同的・創造的な「集まり」としての生産と消費が、前提とされているのである。
 だが、現実には、社会的・協同的・創造的な「集まり」としての市場は成り立ちがたい。生産者、あるいは消費者が意図的(反倫理的)に価値を損ねる事件はあとをたたない。そればかりか、生産と消費のプロセスが、既存の制度や組織が用意した「標準パッケージ」(ものやサービス、習慣やお作法を含む)を、単に手渡すだけの装置と化している恐れもある。ここでいう「標準パッケージ」とは、本書で引用されているリースマンの言葉である。その購入は、標準的な生活を滞りなく進行させるうえではこの上なく有効ではあるけれど、例えば、「社会生活のまとまりのなかに、突然開いた裂け目から」(p.118)見知らぬ現実が進入した場合には、ほとんど役に立たない。そのような場面で人が真に必要とするものは、「標準パッケージ」には見当たらない。それどころか、それは「標準」から外れた事柄を(新たに生じた必要を言い当てる言葉すらも)覆い隠す恐れがある。
 いまだ流通されていない、けれども、切実に必要とする人がいる事柄を、しかも、同様の状況に置かれれば、他の人も同じように欲するであろう事柄を、生産と消費のプロセスにのせ、価値としてこの世に送りだすためには、いったいどうしたらいいのだろうか。一見、バラバラに見える個人を「集まり」として捉え、その生成・変化、「集まり」間の新たな結合と再編成に着目する本書の視点にそのヒントはある。

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