太田 順一
2012年01月05日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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2012年01月05日 |
太田 順一 |
エネルギー・環境 |
地域環境 |
情報誌CEL (Vol.98) |
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狭い国土と勤勉な国民性から生まれた棚田。日本の農村の原風景ともいうべきものだが、村人の高齢化などで放置され荒廃していっているのが現状だ。奈良・明日香村の人々は16年前、「棚田オーナー制度」を全国で2番目に導入した。都市住民にも農業に参加してもらうことで棚田の美しい景観を守ろうとしたのだ。オーナーとなった人との交流を深めるなかでリピーターも増え、結びつきは強いものとなった。そのネットワークを生かして地域おこしの活動をと、2年前、村人とオーナーが一緒になってNPO 法人「明日香の未来を創る会」を発足させた。
6月、田植えの日。神戸や大阪、京都などから棚田オーナーとその家族が集まった。総勢300人。「明日香の未来を創る会」理事長のあいさつのあと、マイクを握った濱田将司さん(61)はオーナーを代表してこう語った。「創る会」の広報担当でもある。
「私らはイベントのときだけ来て、あとは放っておいても米はできると思ってしまいますが……」
年会費4万円を払ってオーナーになると、秋の収穫時には新米がもらえる。そのためには田植えや、草刈り、稲刈りなど年4回以上、明日香に来て農作業をすることが条件だ。が、そんな回数ではちゃんとした米づくりができないのはいうまでもない。水の番など日常的な管理作業は、すべて村人がやってくれているのだ。そのことへの感謝を忘れてはいけないと、濱田さんは自戒を込めていったのだった。
会社勤めをしている濱田さんは、大阪から車で1時間かけてやって来る。農業体験をして分かったのは、田んぼの泥に足を取られ、汗だくになり、腰を痛めながらも、自分で手作業をしてつくった米のおいしさ、ありがたさだ。
「都会で暮らしている者には感動です」
その感動はまた企業社会では得られなかったものだ。彼岸花の咲いた畦で一休みしていると、1分1秒を争う普段の仕事が遠い世界のことのように思えてくる。それに、利害関係のない村人やオーナー同士とのこころ温まる付き合いが、ここにはある。
「メンバーの思いは明日香を盛り上げたいということです。みんないい仲間ですよ」