Dr. Ingrid Haslinger、山下 満智子、宇野 佳子
2012年07月10日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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2012年07月10日 |
Dr. Ingrid Haslinger、山下 満智子、宇野 佳子 |
住まい・生活 |
その他 |
情報誌CEL (Vol.101) |
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―修道院と戒律―
修道院は、ローマの堕落した風習に嫌悪感を持ったヌルシアの聖ベネディクトゥスが、6世紀ごろ神の御言葉に従って生きるために、同じ考えを持った者たちとともに隠遁生活を決心したことから生まれた。ベネディクトゥスは、共同体に厳格な戒律を課した。そのひとつが「祈りと労働」であり、それは今日もベネディクト修道会の最も重要な戒律となっている。修道士たちの食事の回数とその時間も、戒律によって厳格に定められていた。ベネディクトゥスは、四つ足の動物の肉だけでなく、これらの動物から生産されるもの、牛乳、卵、チーズさえも基本的には禁じていた。ベネディクトゥスの食べ物に関する戒律は、修道士たちが何を食べてよいか、何を食べてはならないかについての際限のない紛糾や揉め事の種となった。「温かい料理は二皿で十分である。二皿のうち一皿が食べられなければ、他の一皿で満足を得ることができる。果物や新鮮な野菜であれば、それを三皿めとしてもよい (中略) パンは、1日1ポンドあれば十分である。衰弱している病人を除いて、四つ足の動物の肉を食べてはならない。」
修道院の食堂における食卓は、キリストの「最後の晩餐」の描写を手本とした。しかし、キリストの時代には椅子に座るのではなく横臥して飲食していたという点は、全く考慮されなかった。キリストの「最後の晩餐」は、現代も食卓文化の象徴とされている。食器や後のカトラリーセットは、「12」の倍数、もしくは6人分で生産されるのが常であった。
―修道院と食卓音楽―
修道士たちが食事中に会話を交わすことは、厳しく禁じられていた。しかしながら、食事の時間を有意義なものにするために、修道士がひとりずつ週代わりで指名されて、聖書の一節を読んで聞かせるということが行われていた。ある意味で修道士たちは、食卓における気分の昂揚のさせ方について、「伝統」の継承者であったと言える。すなわち、ギリシャ・ローマ時代には、食事中の音楽や詩の朗読で客をもてなしており、初期の修道院における朗読の習慣は、この伝統を引き継いだものであったと言える。また、今日に至るまで特別な食卓で奏される食卓音楽を始めたのも、修道士たちであった。特別な祝典の日や祝祭日の食事では、朗読の代わりに宗教的な音楽が奏されたのである。