昔、上司によく連れて行ってもらったバーの名はdeuxieme cle（ドゥージエーム・クレ）と言いました。
フランス語で「二つ目の鍵」という意味ですが、まさにアサダさんの言う家と職場の中間にある「サードプレイス」へ入る鍵だったわけです。
本号の特集は「余暇から本暇へ」。言うまでもなく"本暇"は造語ですが、「余暇」は決して仕事などの義務的・公的な時間を引いた後の「余った時間」ではなく、それ自身、固有の役割と価値を持ったもうひとつの「本来の」時間であるべきではないかという仮説から企画が始まりました。
仕事とプライベートな生活をどのように調和させるかについては、近年、「ワーク・ライフバランス」の問題としてよく取り上げられます。そこではワークとライフを対立的に扱い、放っておくと肥大化し、か弱いプライベートな生活時間を蚕食しがちな（いわば悪者の）ワークをいかに制御するか、という文脈で語られることが多いのですが、考えてみればワークもライフの一部であり、「バランスを取る」類のものではないはずです。
人が自身の人生を振り返ったとき、まず思い浮かぶのが日々の家庭生活より仕事で取り組んだこと、達成したことであるというのは決して珍しくないでしょう。両者は決して対立概念ではなく、それぞれをそれぞれのものとして充実させるべきであり、そのための努力が必要なのではないでしょうか。
仕事時間をON、余暇時間をOFF とする表現が日本でも広まりつつありますが、OFF については1日・1週間単位でのON-OFF サイクル以外に、長期休暇というOFFや、定年・子離れ後の長いOFF もあります。これらをイメージすれば、OFFは決して停止・消灯ではなく、「ON とは別のスイッチが入る」ことと考えるのは容易でしょう。OFF すなわちもうひとつのON の時間をいかに充実させるかを真剣に考え、具体的行動に移すことで、ワークも含めたライフ全体の質を向上させることができるのではないでしょうか。
遊ぶように（クリエイティブに）仕事をし、仕事をするように（まじめに）遊ぶことができたら素敵ではありませんか。