土井 健司
2013年11月01日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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2013年11月01日 |
土井 健司 |
都市・コミュニティ |
都市システム・構造 |
情報誌CEL (Vol.105) |
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スローなまちづくりには「速い」交通から「遅い」交通へのシフトチェンジが欠かせないが、日本の都市交通は、これからどのようなヴィジョンを描いていくべきなのだろうか。欧州が成し得てきた取り組みを指針とし、日本のモビリティ改革の実現可能性を探る。
スローは成熟社会を象徴する言葉である。スローフードやスローライフなど、スローを形容詞とする言葉は日常に浸透しているように見える。だが、スローな移動を意味するスローモビリティという言葉はまだまだちまた巷では聞かれない。豊かさの実現において、移動という対象は未だ二の次でしかないのだろうか。しかし、移動に関する市民の関心は決して低いわけではない。満員電車の解消や道路の渋滞緩和などは、今日に至るまで市民の重要な関心事である。問題は、移動に関する我々の視野の狭さにあると思われる。筆者は移動に対応する専門用語として「モビリティ」を用いているが、この言葉は人や社会の可動性、いわば人の潜在能力や社会の活力に関わる概念である。場所をつなぎ人や物を運ぶという意味で用いられる「トランスポート」とは、次元の異なる上位概念である。トランスポート(transport)=入力あるいは投入、モビリティ(mobility)=出力あるいは成果、という構図で捉えれば分かりやすい。それでは改めて、今日なぜスローなモビリティが求められるのか。また、都市との関わりにおいてどのような可能性があるのだろうか。
都市のダイナミックスと思考停止のモビリティ
人と同様に都市は生き物である。人の一生になぞら準えるならば、都市にも少年〜青年期(都市化)、青年〜壮年期(郊外化)、高年期(逆都市化)がある。そして人生にはないが、都市には再生期(再都市化)という4つ目の段階が期待される。都市におけるモビリティのあり方は段階毎に異なり、都市のライフサイクルに従ってその役割は変化する。
都市化段階で求められるモビリティは、鉄軌道などの整備により都心に向けて大量の人を運ぶことであり、郊外化段階においては、より長い距離を速く運ぶ速達性が重視される。郊外化段階の後半においては、低密な郊外開発の進行とともに、移動手段は自家用車へとシフトしてゆく。その後の逆都市化段階においては、ますます都市の低密な拡散が進行することから、大量輸送を前提とする公共交通は衰退し、自家用車への依存度が高まることになる。