伊藤 宏一
2013年11月01日作成年月日 |
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2013年11月01日 |
伊藤 宏一 |
住まい・生活 |
ライフスタイル |
情報誌CEL (Vol.105) |
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高齢化、成熟化、グローバル化する社会のなかで、お金に関する個人の生活設計力や、詐欺などのリスクから身を守るための金融知識が重要になってきています。そこで、「金融教育」に焦点を当てた次世代教育のあり方について探るため、ライフデザイン論や幸福論に基づいて金融教育を進める取り組みをしている、千葉商科大学大学院教授の伊藤宏一氏にお話をうかがうことにしました。
貯蓄教育から投資教育へ---日本の金融教育の100年
日本の金融教育を振り返ると、1900年頃から2000年頃までの約100年間は貯蓄奨励が主な内容であった。貯蓄によって増やされた財源は、戦時には戦費に、戦後はインフレ対策や復興のため、高度成長期には間接金融(銀行)を媒介とした設備投資をまかなう原資として活用された。2000年頃になって、国際的金融環境が変化したことを受け、金融審議会が答申を公表、消費者教育の一環として金融教育が位置付けられた。1952年に発足した貯蓄増強中央委員会(1988年に貯蓄広報中央委員会に改称)が2001年に金融広報中央委員会と名称変更され、金融教育の担い手となったのである。
消費者教育の一環ならば、消費者の立場に立って契約や金融商品選択といった観点から金融教育に取り組むべきである。しかし、実際には金融自由化を背景に、当時の政権の「貯蓄から投資へ」のスローガンのもと投資教育が推進された。こうした取り組みは、2005年に最も盛んであったが、その後は政策の変更や景気の後退もあって下火になり、2008年のリーマンショックでさらに勢いは衰えた。
結局、2000年に金融教育の方向性がいったん変わったかに見えたが、本来の消費者教育から離れた投資教育偏重が続き、さてこれから……というのが現状である。
日本の金融教育における6つの課題
では、日本における金融教育は、具体的にどのような問題をはらんでいるのか。また、あるべき教育の姿とは何だろうか?
金融教育は、次世代教育を担う学校教育と、より一般的な社会教育の2つに分けられる。学校教育に関しては金融広報中央委員会を中心に取り組まれ、一定の成果を上げている。ただ、金融の教科書はなく、体系的な教育にはなっていない。金融に詳しい教員も不足している。社会教育に至ってはより貧弱な状況にある。
基本的な問題として、教育のための基準(スタンダード)が整っていないことがある。何学年で何をどこまで教えるかという指導要領があれば、それをベースに教育内容を組み立てることができるが、金融教育にはそれが不足している。2007年に金融広報中央委員会が「金融教育プログラム」を、2010年に日本FP協会が「パーソナルファイナンス教育のスタンダード」を発表したが、大学生に適した内容がないなど、それらもまだ十分とはいえない。