木全 吉彦
作成年月日 |
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2013年11月01日 |
木全 吉彦
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住まい・生活 |
ライフスタイル |
情報誌CEL (Vol.105) |
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「スローシティ」という言葉の持つ清新な響きに魅せられて、本号の特集テーマを「スローなまち暮らし」としました。
瞬く間に世界を席巻した「ファストフード」にNOを突きつけ、地元の食材や伝統的な食文化を守ろうとしているイタリア発の「スローフード」運動。その延長線上に「大都市では望めない質の高い暮らし、ゆったりした時間と人間らしい大きさを保持する小さな町」(島村菜津、本号6〜10頁)がスローシティです。
しかし、私たちは一定の条件を満たす特定カテゴリーの小都市にフォーカスしようとしているのではありません。都市に住み、学び・働き、遊ぶ人々が近未来にどのような「まち暮らし」を望むのか、都市はその期待にどう応えられるのかを考えてみたかったのです。
昨今、世界最速で進む少子高齢化や福島原発事故後のエネルギー制約など、社会課題を踏まえた都市のあり方が議論されています。周縁部へ拡大した都市の版図を縮小し、中心市街地に居住空間を再配置するコンパクトシティ、ICTによりエネルギーの需要と供給をきめ細かくコントロールして省エネルギーを実現するスマートシティなど、各地でさまざまな取り組みが行われています。
「効率」を追求するこれらの試みとは異なるアプローチとして「スローな暮らし」を置くことで、高齢化、人口減少、防災・減災など都市が抱える課題と、QOL(生活の質)を高めたい都市居住者の潜在ニーズとがつながり、WIN-WINの解が見えてくるのではないでしょうか。
歴史や伝統を受け継ぎ、人間の鼓動や自然のリズムと同期する「スローなまち暮らし」は、自立自足で無理や無駄のないライフスタイルですが、決して懐古趣味や、内向き・不活発なものではありません。効率を物差しとせず、手間を惜しまない「スローな人々」は、異質なものや人を受け入れ、思いやり、手を携えてよりよい「まちづくり」に貢献してくれるはずです。ピンチはチャンス。今こそ、官・民が一体となって地域の資源を生かし、「スロー」な要素を取り入れた魅力的な都市を目指す好機かもしれません。