弘本 由香里
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2014年07月01日 |
弘本 由香里
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都市・コミュニティ |
都市居住 |
情報誌CEL (Vol.107) |
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少子高齢化や人口減少によって地域の足元が揺らぎつつある今日、不意に起こる自然災害など、さまざまなリスクに私たちはどのように向き合い、持続性のあるしなやかな社会を築いていけばよいのか。「減災」のあり方に関する知を共有し、将来に活かすことを目的に、連載を開始する。
地域は災害リスクにどう向き合っていくか
首都直下地震や南海トラフ巨大地震の切迫性が、甚大な被害想定と防災・減災対策の必要性とともに繰り返し情報発信されています。また、気候変動の影響と見られる集中豪雨や台風等の風水害も頻発しています。 地域に目を向けると、少子高齢化・人口減少が進み、高度経済成長期以降に建設されてきた多くのインフラが老朽化し、安心・安全をどのように担保していけばよいのか、難題に直面しています。なかでも、高度に機能が集中した大都市圏は、災害に対しては極めて脆弱で計り知れないリスクを抱え込んでいます。
1995年の阪神・淡路大震災は、1961年の災害対策基本法以来、専門家主導で進められてきた防災の限界を顕にし、「減災」という考え方に目を向けていく契機となりました。災害を抑え込んで被害を防ぐのではなく、災害は避けられないものと捉え、被害を最小化する取り組みを社会のなかに根づかせていく方向性です。おのずと、減災の取り組みは、専門家や行政だけが担うものではなく、生活者も企業も、地域・社会に関わるあらゆる人や組織が主体となります。また、被害を最小化するということは、特別な備えとしての防災だけでなく、災害が起きた後の救援や復旧、生活再建や復興まちづくり、そして日常のなかに埋め込まれた減災文化の醸成まで広がりを持った取り組みとなります。言い換えれば、災害へのしなやかな対応力・回復力”レジリエンス”を持った暮らし・地域・社会を目指していくことです。
こうした減災の考え方は、2011年の東日本大震災を経て、いっそう痛切に社会全体に認識されるものとなりました。災害の記憶を伝えていくことの難しさ、生活者と行政や企業等がリスク情報を共有していくことの難しさ、さまざまな事情が複雑に絡み合っているなかでよりよい選択をしていくことの難しさ。頑健な備えが、ともすると過信や誤った判断を招く恐れもあることなど。これらのジレンマを自覚していくことが、言葉だけで終わらない実のある減災に向けた第一歩になるのだと考えます。