小林 秀樹
2015年03月02日作成年月日 |
執筆者名 |
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2015年03月02日 |
小林 秀樹 |
住まい・生活 |
住生活 |
情報誌CEL (Vol.109) |
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― 開放的な空間を居心地よく感じる日本の家族。大切なことは住みこなし
はじめに ― 個室化は家族を疎遠にする?
住まいの空間は、人と人のコミュニケーションに影響を与えるのだろうか。この問いに答えることは意外に難しい。私たちが行った以下の実験によれば、空間の影響は確実にあるようだ。それは、団地の3DKを学生のシェアハウスとする際に、部屋を4ケ月毎にローテーションしてもらうという実験である。その結果は面白い。DKから遮断された玄関脇の個室に住むと、3人とも共通してDKから足が遠のき寂しく感じていた。
この結果から、「個室は親子関係を疎遠にする」という可能性もありそうだ。しかし、実態はそうではない。子ども部屋に閉じこもる場合もあれば、居間によく出てきて密な親子関係を築く場合もある。逆に、子ども部屋がなくても、実家を離れた後は自然に自立する子どもが多い。つまり、個室の有無が、家族関係に直接影響を与えているわけではないのである。
おそらく重要なことは、個室の有無にかかわらず、それに適した住み方、養育態度をとっているか否かである。先に紹介した学生シェアハウスでも、寂しく感じたとしても、自ら積極的にDKに顔を出す住み方を身につけていれば、むしろ、プライバシーと交流を選択しつつ暮らしを楽しむことができる。
居心地よい住まいの鍵は「住みこなし」
家族のコミュニケーションを育む間取りは、残念ながら存在しない。その住み方により、よくも悪くもなるからだ。住み方は、その人の立ち居振る舞い(行動様式)に自然に表れる。例えば、個室のない一体的な空間では、互いに気遣って空気を読むことを大切にする行動様式が発達し、逆に個室を重視した間取りでは、会話を通して理解しあう行動様式が発達する。というより、そのような行動様式を発達させることで、いずれの間取りにおいてもコミュニケーションは育まれるのである。
居心地よい住まいとは、特定の間取りや空間を指すわけではない。その空間が家族によってうまく住みこなされている状態を指している。逆に、間取りと住み方がずれていると、人間関係の希薄化や、ストレスあるいは過度な密着が生じやすい。例えば、壁のない一体的な空間において気遣いや遠慮の行動様式を身につけなければ、プライバシーの摩擦からストレスが生じるし、個室化の中で気軽に会話する習慣を身につけなければ、人間関係の希薄化を招くことになる。