加藤 政洋
2016年03月01日作成年月日 |
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2016年03月01日 |
加藤 政洋 |
住まい・生活 |
ライフスタイル |
情報誌CEL (Vol.112) |
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近年、高層ビルの建設を中心に据えた再開発が大都市圏で相次ぎ、街の風景は急速に変わりつつある。生活の利便性は高まる一方で、都市空間の均一化が進み、街の表情は乏しくなっているのではないだろうか。京都の繁華街に存在する集合建築である〈会館〉から、現在の街づくりが学ぶべき空間の奥ゆきを考察する。
集合建築としての〈会館〉
まず、一枚の写真をご覧いただきたい。阪急京都線西院駅の近傍に立地する、立ち呑みを中心とした飲食店の集合建築である。角地の土地区画にあって、角を切ったファサードの正面に掲げられた大きな看板が、ひときわ目を引いている―その名も「折鶴会館」。内部は2本の通路を挟んで店舗が並び、最奥には共同のトイレがある。その雰囲気は、まるで闇市を起源とする飲み屋街のようだ。
近年、酒場を特集する関西のローカル誌では、「折鶴会館」をはじめ、「新宿会館」や「四富会館」といった、「〜会館」と名のつく同種の集合建築が取り上げられることも増え、それらの店舗で若い女性が独り呑む姿も珍しい光景ではなくなってきた。
〈会館〉と称する飲み屋の集合建築は、2015年11月末現在、京都の中心市街地だけでも60件を超えている。けれども、メディアに登場するごく一部の〈会館〉を除くと、観光客はもちろん、地元の人の目に入ることも少ないのではないだろうか。〈会館〉という建築とその呼称は、京都に固有というわけではないものの(大津市・大阪市・神戸市などにも分布している)、かといって一般に馴染みがあるわけでもない。〈会館〉のように特定の機能の集積する建築空間を考えてみると、たとえばオフィスビルや集合住宅、あるいはスナックやクラブの入居する雑居ビルなどが想起される。このとき、京都の〈会館〉に関して注目すべきは、例外は少なからずあるにせよ、本来は商家や住宅として使われてきた低層の木造家屋(いわゆる「町家」)が転用されている、という事実にほかならない。1階部分に通路を通し、2階へは階段を備え付けることで、商家であったひとつの建物の内部に、複数の店舗を収容することが可能となる。その結果、複数の飲み屋がひとつ屋根の下に集まり、路地裏や横丁にも似た独特の建築空間、あるいは「飲み屋アパート」とでも称するべき建築形態が生み出されるのだ。
京都市中京区にある、ひとつの〈会館〉を参考にしてみよう。