情報誌CEL
「外」との対話で創られる文学 池澤 夏樹
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2017年03月01日
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情報誌CEL
(Vol.115) |
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優れた文学作品に触れることは、想像力を養い、感性を培う。今、日本文学は、翻訳を通じ、国境を超えて読まれる「世界文学」へと変わりつつある。日本語の書き手は、何を思い、どのように創作をしているのだろうか。詩や小説のみならず翻訳も手がけ、「世界文学全集」「日本文学全集」を個人編集するなどの試みを続ける作家・池澤夏樹さんに、海外の滞在経験も含めお話を伺った。
海外を渡り歩いても立ち位置はあくまで「日本」
池澤夏樹氏は、北海道に生まれ育ち、30代でギリシャに3年、40〜50代で沖縄に10年、60代でフランスに5年と国内外でさまざまな場所に滞在。広く世界を見聞しながら、詩や小説、翻訳、評論など創作活動を行ってきたが、その海外遍歴は、27歳でミクロネシアの小さな島へ行ったときから始まったという。昔から日本とは「折り合いが悪い」と感じ、高度経済成長期のなかで活気あふれる日本に息苦しさを感じていた池澤氏は、その島ののんびりした暮らしに魅了された。
「それからは、別の土地の言葉や食べるもの、ものの考え方を味わうのが面白くて仕方なくなりました。旅人というのは、ちょっとずるいんですよ。選挙権もなければ税金も払わず、その社会のいいところだけをつまみ食いできるわけでしょう。生き方として楽なんです」
ただ、インドや太平洋の島々を旅するうちに旅行者の視点からは見えないものがたくさんあることに気づく。最低でも1年は滞在して、一巡する季節を体験したほうがいい。そう考えて選んだのがギリシャだった。すでに翻訳家として活動していた氏にとっては、ギリシャにまつわる本を翻訳し終えたというタイミングも居住を決める大事な要素になったという。それにしても、気になるのは滞在先の選び方だ。行く先は辺境と呼ばれるところばかり。沖縄や北海道と、日本で住むのもまた端のほうだ。
「『外したい』という意識はあります。真ん中のことはみんなやっているから、だいたいわかる。自分の目で見なければわからないところというのは、端のほうなのです」
自身の旅について「一生を棒に振る道楽」と笑いながらも「僕の場合はいつも遠足とその後の作文」と言う氏は、経験をどのように作品へと昇華させているのだろうか。沖縄滞在の経験から語る。