情報誌CEL
CELからのメッセージ 外に出て学び、文化をつくる
作成年月日 |
執筆者名 |
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備考 |
2017年03月01日
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池永 寛明
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住まい・生活
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ライフスタイル
その他
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情報誌CEL
(Vol.115) |
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琵琶湖が見える創業300年の丁子屋で、モロコと真鴨を炭鍋でつつきながら、湖西地域のあり姿を議論した。参加していたのは、ハーレムの寿司店と六本木のワイン店を経営する元デザイナー、イタリアトスカーナと滋賀今津を行き来する伝説のシェフの元建築学生、世界を旅し大阪船場で多くの独創的な店を展開する元陶芸家である。3人とも30年前に20歳代で外国に飛び出て現地で働き能力を認められた後に、日本に戻り日本的なるものを組み込んだ魅力的な作品、サービスを生み出した。内と外、過去と未来の軸で縦横無尽にアイデアが飛び交い、独創的なプランが生まれた。
分からないことがあればスマホで手軽に検索できる時代となった。瞬時に情報が手に入り、分かったような、できるような気がする。技術は利便性を高め、学び方や仕事の進め方を変えた。時間をかけて百科事典や書籍を読み情報を取捨選択して身につけるというプロセスは受け入れられない。現地を訪ね現物を見て詳しい人に訊き、じっくりと考え試行錯誤し失敗から学び自分の型を生み出すというスタイルが忘れられつつある。
3年前に旧東海道五十三次を歩いた。東京日本橋から京都三条までの500キロ。新幹線ならば2時間半程だが、妻と1日で歩ける区間を積み重ね、延べ3週間かけて歩いた。輸送機関の進展が「時間概念と時間感覚」を変え、思考する生活時間を減らした。旧東海道を歩くなかで上方と江戸の文化が旧宿場に溶け込んだ地域文化を発見した。現地を歩き見て会話したからこそ掴んだ情報がある。
文化という言葉が誤解されている。教養、芸術、伝統芸能のことと思われがちだが、ラテン語の「cultura(耕す・育成する)」に由来し、耕作・栽培するという意味。作りたい物を決め、耕作する場を探し、種を育て耕地に蒔き、季節の変化を読んで水と養分を与え、雑草や虫を取り除き収穫するという「耕作・栽培」手順を通して文化が生み出される。衣食住、生活、企業、学校、都市は、その地域概念にもとづき、総括・複合化され地域文化を生み育て、再び次に引き継いでいくものなのである。