島原 万丈
加藤 政洋
作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
カテゴリー |
媒体(Vol.) |
備考 |
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2017年07月03日 |
島原 万丈 |
都市・コミュニティ |
都市居住 |
情報誌CEL (Vol.116) |
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巨大資本の流入や不動産開発により都市空間の均一化が進むなか、まちの記憶を引き継ぎ、豊かな奥ゆきのある「場」をつくるにはどうすればよいだろうか。「五感で感じる身体性」をキーワードに住生活の調査研究に携わる島原万丈氏と、都市地理学の視点から盛り場のフィールドワークを行う加藤政洋氏に、数値では測れない「場」の魅力について語っていただいた。
都市の魅力と五感で感じるエロス
加藤:島原さんが中心となってまとめられた「Sensuous City [官能都市]―身体で経験する都市:センシュアス・シティ・ランキング」という調査研究は、「官能」という言葉をキーワードに魅力的な都市のあり方について考察した画期的な試みですね。思い出したのは、フランコ・ベラルディ(ビフォ)というイタリアの思想家が、現代都市とは本来、エロスの空間であると述べたことです。彼のラディカルな思想のなかでは、本来は五感で直接的に感じるべきものである都市が、今は快適な車で好きな音楽を聴きながら窓ガラスを隔てて見るだけの、いわば「ポルノグラフィ」になっているというのです。
島原:それをおっしゃっていただき嬉しいです。実は私たちもエロス(エロース)という言葉を使おうとしていたのです。効率優先でつくられる最新型の高層ビルやショッピングモールにもよいところはあるが、何かが足りないと感じる。それは、ロゴスに対するエロスのようなものであろうというのが出発点でした。幸いにも多方面で好評を博してはいますが、「官能」などという言葉はけしからん、と怒られることはよくありますよ(笑)。とはいえ、私は長くマーケティングの仕事をしていたもので、都市の専門家ではありません。加藤先生のご著書『花街 ― 異空間の都市史』も読み、勉強させていただきました。
加藤:私が盛り場的なものにひかれていろいろな都市を巡り歩くなかで、とりわけ面白いなあと思うのは、都市が都市としてできあがってくる瞬間に、特定の機能みたいなものが集積することです。明治以降の日本ではとりわけ顕著な傾向ですが、それは決まって生鮮食料品などを売る市場的な要素、歓楽街のような「花街的」な要素、さらには劇場や映画館といった娯楽的な要素の3つです。こういう娯楽的な消費の局面というのは、都市のインフラや住宅がままならないような状況でも、人が集う核のような場として必ず生まれている。
島原:それを「インキュベーター」という言葉で表現されているのが印象的でした。