アズビー・ブラウン
板東 洋介
作成年月日 |
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2017年07月03日 |
アズビー・ブラウン |
都市・コミュニティ |
コミュニティ・デザイン |
情報誌CEL (Vol.116) |
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経済活動の中心を担い発展を遂げた近代都市。ところが、その行き過ぎた消費経済が、気候変動や生態系の変容などの深刻な問題を引き起こしている。今、その消費活動の背景にある人間の行動様式そのものを根本的に見直す必要があるのではないだろうか。現代社会に転用可能な江戸時代の循環型生活スタイルを提唱するアズビー・ブラウン氏と、経済発展により格差が進んだ江戸社会における思想を研究する板東洋介氏に、サステナブルな都市を実現させるためのヒントを、多角的な視点で語っていただいた。
江戸時代の循環型生活の基層について
板東:アズビー・ブラウンさんが「サステナブルな生活」という視点で江戸時代の生活を解説された『江戸に学ぶエコ生活術』という本を読ませていただき、大変感動いたしました。
たとえば古い民家の形というのは、日本人の考えと生活の反映です。私自身は江戸時代の思想を専門に研究しておりますが、書かれた資料のなかには、それがなかなか現れてこない。当時は中国で書かれた儒教、とりわけ朱子学や陽明学の文献を解釈するという営みが思想の中心でしたが、果たしてそれは多くの日本人が働いて生きて死んでいく、その生活過程と本当に絡み合ったものであったのか?そこにはかなり疑問があります。
江戸時代の国学者も、そのような考えから儒学を批判し、『古事記』や『万葉集』といった日本の古典に向かいました。明治以降の日本でも、輸入した西洋の思想が大衆の生活とつながることはなかった。この本に描かれた生活の細部にわたる美しいイラストを見ている方が、荻生徂徠の『論語徴』を読むよりも、ダイレクトに日本人の考え方が伝わってくるのではないかと思ったのです。
ブラウン:大変光栄です。今の日本人は儒教、特に朱子学については何も知りません。でも、私が初めて日本に来たとき強い印象を受けたのは、日本人の生活と価値観に深く染みついた、たとえば先輩と後輩というような考え方です。西洋でいえば、多くの一般常識や諺が『聖書』に基づいているのと似ています。ですから私は、江戸時代にあったような循環型の生活の基層にも、儒教や神道、そして仏教的な価値観があったと感じているのです。
板東:そうですね。ただ日本の場合、はじめに思想があってそれを典拠として道徳ができているといえるのか、微妙なところがあります。農民が共同で農作業するとか、武士が合戦をするといったプラクティスが先にあり、それを表現するとき禅や儒教の言葉を借りてみた、といったことも多かったのではないか。