情報誌CEL
【インタビュー】未来を考える−2
科学技術が人間を自由にする技であるために
作成年月日 |
執筆者名 |
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備考 |
2019年03月01日
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上田 紀行 |
住まい・生活
都市・コミュニティ
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ライフスタイル
コミュニティ・デザイン
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情報誌CEL
(Vol.121) |
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日本の未来を考えるうえで、避けては通れない教育問題。社会が成熟し、イノベーションを生み出す人材がますます求められる現在、専門性ばかりを重視したこれまでの大学教育とは異なるアプローチが必要ではないだろうか。そこで今回は、理工系の大学でありながらリベラルアーツ教育を充実させる、東京工業大学の取り組みを紹介する。その理念や内容について、リベラルアーツ研究教育院長の上田紀行氏にお話を伺った。
評価ばかりを求め、質問をしない学生たち私が東京工業大学に着任したのは1996年、バブル崩壊後のことでした。そのとき印象的だったのは、授業中の質問がとても多いこと。さすがに頭のよい子たちは違う、と驚いたものです。ところがその雰囲気も20年間で失われていき、授業で積極的に発言をするような学生は減り続けました。かわりに増えたのが、レポートでも試験でも評価ばかり重んじる学生たちです。批判的な鋭い質問のかわりに、「先生、このレポートの評価軸は何ですか?」といったことばかり訊かれるようになった。「もっと質問してください」と促しても、「どんな質問をするのがよいのですか?」と逆に問われてしまう。自分が何をやりたいか、自分が何を知りたいかよりも、自分はどう評価されるか、を考えずにはいられないのでしょう。
これには社会的な背景もあり、実は学生だけに限った話ではありませんでした。学校の教師も会社員も、誰もが厳しい評価の目にさらされるようになっていた。評価されない、役に立たない、無駄なことは誰もやらない。そんな時代になってしまったのです。
この20年くらいのあいだ、どこの大学でも社会に出てすぐに役立つ「即戦力」の育成が求められてきました。専門教育を前倒しする大学が増え、大学院の重点化も行われた。「大学の国際競争力を高めよ」などと言われ、大学も評価を求めて時流に乗った改革をつぎつぎと進めてきたのです。
今、振り返ると、やるべきこととまったく逆のことをやっていたのかもしれません。日本は成熟社会を迎えており、成熟社会だからこそのよさを出していくべきだったのに、自らがもつ文化の底を浅くしてしまうようなことをしていたのです。たとえば最近の日本では、どうも社会を変えていくようなイノベーションを起こす人がなかなか出てこない。それも、こうした教育の現状と関連があるのではないだろうか?そんな疑問を抱く人たちが増えてきたのだと思います。