高山 なおみ
2020年03月01日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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2020年03月01日 |
高山 なおみ |
都市・コミュニティ |
コミュニティ・デザイン |
情報誌CEL (Vol.124) |
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私と神戸
私は今、神戸に住んでいます。
長い間東京で暮らしていましたが、思い切って引っ越してきました。六甲山のふもとにある六甲という町に住むようになって、もうじき四年になります。
この小さな町には、私が知っているだけでもキリスト教の教会が四つあります。珈琲の自家焙煎のお店や美容院にも、歩いているとなぜかよく出会います。どうしてなんだろう。
整骨院や鍼灸院が多いのは、「坂のせいやと思います」と、六甲生まれ六甲育ちの友人が教えてくれました。
そう、私の住んでいるマンションも、びっくりするほど急な坂の上に建っているんです。いちばん近いコンビニとパン屋さんへは、海を見下ろしながら坂を下って二十五分。スーパーまでは直進なので二十分。郵便ポストがその途中にふたつ、通るたびにお参りを欠かさない、かわいらしい神社がひとつ。
坂を下りたら、当然上ってこないとならないので、用事がない限り、私はほとんど家にいます。何をしているかというと、パソコンに向かって書き物の仕事です。
一日中家にいてもちっとも気づまりにならないのは、南の窓いっぱいに海と空が見えるし、正午と夕方六時には、教会の鐘が鳴り響くからでしょうか。カラーンコローン、カラーンコローン。ときおり風にのって、汽笛がボ――ッと鳴ることもあります。海からの風は、旅を連想させます。
冬は、陽の出が七時ごろなので、このところ私は、大阪湾の向こうの山から顔を出す、大きな太陽を眺めるのが日課になっています。
今朝は六時に目覚めました。カーテンを開けると、真上の空には三日月がまだ光っていました。街の夜景も瞬いています。藍色というのか、紫紺色というのか、空の高いところは暗いのに、山並みに沿って、茜色に輝く帯がすーっと伸びていました。
ラジオのピアノ曲を聴きながらベッドに横たわり、目をつむって、ときどき起き上がっては待ちました。そのうち、火の玉みたいなオレンジの欠片が見えたかと思うと、そこからは速い速い。ちょっと目をそらしたすきに眩しい光がぐんぐんと現れ、裸眼ではもう見ていられない。それでようやく安心し、起きました。
そんなふうに、ほとんどの時間を家で過ごしている私ですが、三宮のデパートに買い物にいったり、大阪や京都まで遠出するときには、六甲駅から阪急電車に乗ります。チョコレート色の車体に緑色の座席が落ち着いた雰囲気の列車で、私は山が見える側のシートに座るのが好きです。六甲の山々は、季節を追っていろいろな色合いを見せてくれます。