江田 健二
2020年11月01日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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2020年11月01日 |
江田 健二 |
エネルギー・環境 |
エネルギー・ライフスタイル |
情報誌CEL (Vol.126) |
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新型コロナウイルス感染症の拡大は、多くの業界に影響を与えており、当然ながらエネルギー産業もその例外ではない。急速に進んでいるデジタル化の流れと変化をふまえながら、アフターコロナの時代だからこそ求められるエネルギー分野の新たなビジネスモデルについて考察する。
勝ちパターンの変化、ニーズの変化
ウイルス対策が本格化した、2020年2月から現在2020年9月までのエネルギー業界は、4月、5月を中心に1〜2割のエネルギー需要の低下に直面しましたが、飲食業界や旅行業界のような需要の半減や需要の蒸発(9割以上減)などの事態には陥っていません。生活の根幹をなすインフラ産業であるという理由から他産業に比べて需要が底堅かったとも言えます。他産業に比べれば大きな影響を受けなかったとも言えますが、その中でもいくつか見られた興味深い変化についてご紹介します。
ひとつ目は、電力小売りビジネスにおける勝ちパターンの変化です。需要減などの影響で電力卸売市場(JEPX)での電力の取引価格が非常に低下しました。これにより電力小売り事業者は、 従来に比べて低価格で市場から電力を調達し、顧客である法人や家庭に対して電力を販売できるようになりました。具体的には、2020年4月の第4週の平日の平均価格は1キロワット時5円となり、1年前の同じ時期より4割程度低下しました。
実は、電力小売り事業者は、これまでは「いかに発電事業者との関係を構築し、相対取引を増やすか」に力を注いでいました。相対取引での電源調達契約を結んでおくことが、あまり電源を持たない小売り電気事業者(新電力会社等)にとっては、勝つための必須条件だったのです。なぜなら、相対取引を増やすことで電力の仕入れ価格を安定化させることができ、急激な電力卸売市場の高騰による逆ザヤ[*]を回避できるからです。しかし、電力卸売市場での取引価格の極端な下落により、勝ちパターンに変化が生じました。発電事業者との相対取引をあまり契約できていなかった電力小売り事業者(比較的小規模な新電力)の方が、市場からの安い電力のみを仕入れられるので、顧客候補に対して魅力的な電力価格を提示できるようになったのです。一方で相対取引を多く結んでいた小売り事業者は、市場よりも高い価格で電力を仕入れることになり、競争力が失われました。つまり、昨年までの勝ちパターンであった「相対取引をいかに増やすか」という方程式が崩れてしまったのです。この状況を利用して、サービスを強化する新電力事業者も現れています。
*投資対象の価格変動により、購入価格よりも 売却価格や現在の価格が安くなっている状態を指す