橘 武史
前田 章雄
作成年月日 |
執筆者名 |
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2020年11月01日 |
橘 武史 |
エネルギー・環境 |
エネルギー・ライフスタイル |
情報誌CEL (Vol.126) |
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日本は「失われた20年」といわれる状況のなか、国際競争力や労働生産性は長きにわたり低落したまま、人口減少や高齢化に端を発する多くの課題に直面している。こうした状況下で日本社会はどう変化してきたのか、そして変化していくべきか。専門のロケット工学を起点に、幅広く長射程の提言を続ける、九州工業大学名誉教授の橘武史氏にお話を伺った。
70kgの移動に1tを動かす?
自動車産業中心の社会構造への疑問
橘 私の専門は宇宙工学で、メインはロケット推進です。私がこの分野に飛び込んだ当時、日本のロケット工学はまだアメリカには遠く及ばず、そんな工学系でもずっと"上流"の問題、何の役に立つかわからない研究をしている点に、強く興味をひかれたんですね。そうした経験から、物事を考える際に根本へ立ち返るという姿勢が身につき、社会を取り巻くさまざまな疑問についても「なぜこんなことが起こったのか?」と考えることが多くなったのだと思います。
前田 なかでも、先生が早くから疑問を呈してこられたのは、日本があまりに自動車産業中心の社会構造である点です。
橘 80年代初め、留学先のアメリカから帰国した折にアメリカとの差にひどく驚かされたのがきっかけです。アメリカでは自動車が都市環境にしっくりなじんでいましたが、日本では街なかの貧弱な道路を自動車が猛スピードで走ってくる。生活者の中心であるはずの歩行者が二の次になっていて、高齢者が歩道橋を渡らされているのに大きな違和感を覚えました。日本の風土や交通事情に合致しているとはいえない自動車中心のインフラシステムによって、日本の都市構造は多様性をなくした死んだ街となっている――そんな感覚を覚えたわけです。
そもそも、製造と使用に大量のエネルギーを消費する自動車に依存し過ぎる経済は、少資源の日本には長期的に大きな負担になるでしょう。
前田 自動車の製造は裾野の産業も広い、日本を代表する主要業種のひとつといえます。それに対し、その自動車に依存し過ぎているという見解を初めて伺ったときは、非常にショッキングでした。一方で、日本の省エネ技術は優れており、自動車の生産に関わるエネルギー利用量も、走行に必要となる燃料の使用量、いわゆる燃費性能も大きく向上しています。