金澤 成子
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2021年03月01日 |
金澤 成子
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都市・コミュニティ |
コミュニティ・デザイン |
情報誌CEL (Vol.127) |
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新型コロナウイルスの感染拡大でエンターテインメント界の苦境が続くなか、アニメ映画『鬼滅の刃』が歴代興行収入1位の記録を塗り替える大ヒット作となりました。映画館には、親子連れから高齢者までが足を運んでいます。なぜ、ここまで人々の心を捉えたのでしょうか。作品の面白さはもちろんですが、コロナ禍という大きな変化のなか、生きる指針を失い、新たな価値観を築かなければならない時代に、「全集中の呼吸」で仲間と共に運命を切り拓こうとする主人公の覚悟と献身の姿が共感をよんだのではないかと思います。
今号では、コロナ禍を乗り越えるために、新しい取り組みに挑戦する現場の事例を紹介しながら、文化芸術の存在意義を考察しました。大衆娯楽の原点に立ち返り、新たな世界観に挑戦したART歌舞伎、世界の観客や男性客も意識した作品で顧客拡大を図りながら地域と共に歩んできた宝塚歌劇団、地域や人々に「開かれたアート×空間」の可能性に挑戦する京都市京セラ美術館など、いずれも時代や国境を超えて、多様な価値観を生み出し、伝承しています。文化芸術は、経済的価値を超え、人々の心を無限に動かし、時に行動変容の原動力になる「社会インフラ」としての存在意義があると考えます。
コロナ禍の日本において、文化芸術は、「不要不急」の烙印を押されてしまい、政策支援が手厚い欧州に比べて、重要な「社会インフラ」と扱われていない現状が露わになりました。1930年代の大恐慌以来の最悪の世界経済危機の不安のなか、これを乗り越えるべく国際協調という世界レベルの「インフラ」が必要火急ではないかと思います。世界に誇る日本の文化芸術が、この「インフラ」を創造する土壌となり、世界と共に未来社会を切り拓くきっかけとなることを切に望みます。
世の中が激変し、価値観も多様化するなか、わが研究所も、その時代の文化芸術に寄り添いながら、素晴らしさ、愚かさ、愛しさも含めた人間理解に立って、真に心豊かな暮らしの創造に、「全集中の呼吸」で挑んでいきたいと思います。