金澤 成子
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2021年11月01日 |
金澤 成子
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住まい・生活 |
ライフスタイル |
情報誌CEL (Vol.129) |
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コロナ禍では世界の先進国と比べ、日本における官民のデジタル化の遅れが顕在化しました。政府はデジタル庁を設置し、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化を。」をミッションとし、ポストコロナに「一人ひとりの多様な幸せを実現するデジタル社会を目指し、世界に誇れる日本の未来を創造します」としています。今号では、デジタル社会に向けてスタートラインに立った日本が、今後どのように歩いていくべきなのか、先駆的な事例を通じて考察しました。
国家存続の危機から隣国も巻き込み、デジタル先進地域として持続的成長と幸福を勝ち取った北欧バルト8カ国。インターネットの発想の真逆をいく、あえてローカルなSNSで地域の関係性を掘り起こした「ご近所SNSマチマチ」の躍進。スマホの普及などで外からさまざまな情報が入ってくるため、ひとつの物理的空間にたくさんの「孔」が開いてしまう「多孔化」社会での世代を超えた「協働」のあり方。同じ価値観の人に囲まれて生きる「幸せな分断」という安住の壁を乗り越え、自律した個人と集団の双方の幸福が両立する「人類の調和」社会への挑戦。これらは共通して、デジタル化への信頼がベースとなっています。
デジタル化は生活の不便を便利に変えた一方で、失ったものもあると感じています。『サザエさん』に代表されるアナログ世代の社会では、ご近所の情報をいち早くつかんでいる不動産屋さんや御用聞きの酒屋さん、時には「バカもん」と怒鳴りつけてくれる波平さんのような存在がありました。失敗してもそばで支えてくれる人たちがいるので、安心して成長できたのです。当時のアナログ社会には、世代を超えて顔の見えるつながりがあり、自己を承認してくれる多くの「幸せ」の場があったように思います。「いいね」に代表される承認欲求は、今も昔も変わらぬ普遍的なものかもしれません。しかし、それを満たすアナログ社会では当たり前にあったつながりが、デジタル社会では薄れてしまい、その解消のためにインターネットへの依存度も高まっているのではないでしょうか。「誰一人取り残さない」デジタル社会の「幸せ」を実現するためには、リアルとバーチャルの二刀流で、世代を超えて安心してつながることができる「幸せ」の場をデザインすることが重要ではないかと考えます。