橋爪 節也
2021年11月01日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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2021年11月01日 |
橋爪 節也 |
都市・コミュニティ |
まちづくり |
情報誌CEL (Vol.129) |
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第5回 ニュージーランド館を吹田に発見
――EXPOʼ70のモニュメント
EXPOʼ70のパビリオンやモニュメントが移築され、思わぬところで出くわすことがある。
大阪中之島の国立国際美術館にあるジョアン・ミロ(一八九三〜一九八三)の陶板壁画『無垢の笑い』が、ガス・パビリオンのために制作・展示されたことは有名だが、ほかにもシドニーと姉妹港である四日市には、北斎の『富嶽三十六景』にインスピレーションを得たオーストラリア館が移設され、二〇一三年まで活用された。愛知青少年公園(現在の愛・地球博記念公園)に移されたフジパン・ロボット館は老朽化で撤去されたが、手塚治虫プロデュースのロボットは「愛・地球博」(二〇〇五年)にも出展され、いまも愛知県児童総合センターで動いている。
最近出くわした万博の記念物が、万博の開かれた吹田市の市立中央図書館に残るニュージーランド館のモニュメントである。
図書館一階に、ニュージーランドの陶芸家ロイ・コワン(一九一八〜二〇〇六)制作の八千枚のタイルによる太平洋と鋼鉄で作られたニュージーランドのモニュメントがはめこまれ、屋外には、W・R・アレンのステンレスの球体と天を突く棒で構成された彫刻が設置されていた。一九七一年竣工の図書館の建築も時代の感覚を現代に伝えてゾクゾクする。
図書館の話になったので、EXPOʼ70にちなんだ小説もあげておこう。SFの巨匠筒井康隆の『人類の大不調和』は、夜になると万博会場にベトナム戦争で虐殺が行われたソンミ村や、大飢饉に襲われたビアフラのパビリオンが出現するというブラックユーモアに富んだ作品である。大阪万博に先立つ一九六八年に書かれた眉村卓『EXPOʼ87』は、一九八七年に再び日本で万博が開催されるという近未来小説であり、これらの作品にも時代の雰囲気が濃厚だ。
そして文学と万博の思い出で強烈な印象を残すのが、万博閉幕の二ヶ月後の十一月、作家の三島由紀夫(一九二五〜七〇)が「楯の会」会員らと自衛隊市ヶ谷駐屯地を訪れ、檄文を撒き、割腹自決した事件である。
事件の再検証が進められているが、EXPOʼ70にまつわる記憶は次から次へと結びつき、突然、心の中に時代のモニュメントのように立ち上がってくる。