林 千晶
2022年09月01日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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2022年09月01日 |
林 千晶 |
エネルギー・環境 |
エネルギー・ライフスタイル |
情報誌CEL (Vol.131) |
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新しい時代をつくるために「箱の外」へ出よう
「持続可能な社会」って何でしょうか? 見たことのない未来を大胆に描こうとするなら、私たちはこれまでの常識や成功体験を捨て、「箱の外(アウト・オブ・ボックス)」に出る必要がある。そんな風にいつも考えています。
最近、日本でも翻訳が紹介された『POSITIVE DEVIANCE(ポジティブデビアンス)――学習する組織に進化する問題解決アプローチ』は、コミュニティや組織が抱える複雑で解決困難な問題を「逸脱者」が変えていくストーリーであり、方法論です。慣習と変化をどうやって調和させるか?という難しい課題へのアプローチも示され、すべてを変えるのでなく、新たな変化を生みながら文化を継承させていく大切さを教えてくれます。そういう変化は、きっかけが外からもたらされたとしても、中にいる人が「そこから出よう」と行動することで起きるのです。
たとえば、未来に向けて「持続可能な社会」といったテーマで話をするときにも、よく言われるのは、そのために必要な考え方や行動の指針をかつての日本文化がもっていた、という指摘です。
私も日本人ですから、そういう側面があることは知っていますし、嫌いではありません。けれども、日頃から「大胆に未来を描こう」と言っている私にとって、この議論は役に立たない。それどころか「日本古来」という言葉は、むしろ禁句だと思っています。「アウト・オブ・ボックス」こそが大切なのに、そうした表現を使いはじめた途端に、発想がすでに「見たことのあるもの」「知っているもの」の延長にとどまってしまうからです。
2019 年にビャルケ・インゲルスというデンマークの建築家がコペンハーゲンにつくった、有名な廃棄物エネルギー・プラント[*1]があります。そこは、なんと屋根が巨大な人工のスキー場になっているんです。廃棄物を処理する場所でありつつ、この上なく安全ということがわかるわけで、仮に「日本古来」「先祖伝来」なんていうことを言っていたら、こうしたとてつもないアイディアは出てこないでしょう。
[*1]50年前の古い発電所を建て替えたもので、名称は「コペンヒル」。詳細はhttps://www.copenhill.dk/en/(英語)を参照。