川端 美樹
2022年09月01日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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備考 |
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2022年09月01日 |
川端 美樹 |
エネルギー・環境 |
エネルギー・ライフスタイル |
情報誌CEL (Vol.131) |
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持続可能な社会実現へ向けた目標の柱の一つである環境保全・保護は、社会の中で解決すべき重要な課題である。
課題解決には、ライフスタイルや意識・行動の変化が必要だが、それには人々のもつ自然観が大きく関わると考えられる。
本稿では、メディアが日本人の自然観に与える影響について研究を行っている筆者が、日本人の自然観形成の歴史的経緯や、それに対する人々の意識変化の調査から見えてきたものを踏まえ、それらがサステナビリティの実現にどのように関わるのか、社会心理学的なメディアの影響の視点から考察する。
「自然を愛し、自然に従い、自然を受容する日本人」像
日本人の自然観については、これまでに多くの著作が出版され、また議論が行われているが、中でもよく知られているのが寺田寅彦[*1]の『日本人の自然観』[*2]である。この著書で寺田は、複雑多様な日本の自然が、日本人に対して無限の恩恵を授けると同時に、不可抗な威力をもって支配してきたと述べている。そして、日本人は自然に服従することでその恩恵を十分に享楽し、それが彼らの自然観を形作ったとしている。また、寺田の主張に影響を与えた和辻哲郎[*3]の『風土−人間学的考察』[*4]では、「ある土地の気候、気象、地質、地味、地形、景観などの総称」である風土をタイプ分けし、日本の風土はモンスーン型の一つの形態であるとした。モンスーン型に生活する人間は自然に対抗する力が弱く、自然に受容的になるという。また自然の暴威、例えば大雨や暴風、洪水、旱魃といった災害が襲いかかるため、忍従的にもさせる。そのため、モンスーン型の風土に生きる人間は「受容的・忍従的」であり、それが日本人の自然観に影響を与えてきたという。
寺田や和辻の主張ともつながる、日本人は自然を愛し、自然と調和し、自然を受容するといった考え方は、現在でもよく見られている。2011年の東日本大震災の直後、大きな災害に襲われた日本の「注目すべき回復力」と、日本人の「堂々とした冷静沈着さ」を世界中のメディアが取り上げた際にも、同様の根拠が挙げられていた。
[*1]日本の物理学者・随筆家・俳人(1878〜1935)。代表作に『柿の種』『天災と国防』など。
[*2]寺田寅彦(1935)。『日本人の自然観』 岩波書店。
[*3]日本の哲学者・倫理学者・文化史家(1889〜1960)。代表作に『風土 −人間学的考察』『古寺巡礼』など。
[*4]和辻哲郎(1935)。『風土 −人間学的考察』 岩波書店。