松尾 雄介
2022年09月01日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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備考 |
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2022年09月01日 |
松尾 雄介 |
エネルギー・環境 |
再生可能エネルギー |
情報誌CEL (Vol.131) |
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2015年のパリ協定を契機に、企業に対しても脱炭素化の取り組みが求められるようになった。
多くの海外企業が事業戦略を転換し、脱炭素経営に取り組む一方、日本企業の動きは鈍いといわざるを得ない。
なぜ日本は諸外国に比べ後れをとってしまったのか。
地球環境戦略研究機関のビジネスタスクフォースディレクターである松尾雄介氏が、その理由を考察するとともに、脱炭素経営の必要性を説く。
待ったなしの気候危機に迫られる経営戦略の転換
なぜ、世界が脱炭素経営へと舵を切っているのか。基本的なことではありますが、気候変動が人類のリスクと捉えられているからです。気候変動というと、猛暑や洪水などが及ぼす気象災害を思い浮かべるのではないでしょうか。しかし最新の科学的知見が取りまとめられたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)などでは、それらに加え、食料、健康、貧困、移住、紛争まで、幅広い問題を引き起こすと指摘されています。気候変動は、もはや気候危機と呼ぶべきものであり、社会を持続不可能にし、人類の脅威となっているという国際的な共通認識ができています。
2015年のパリ協定や昨年のグラスゴー気候合意を経て、危機回避のために気温上昇を産業革命以前に比べて1.5度に抑える努力をしなければならないと合意されました。背景には、気温上昇が1.5度と2度では被害に大きな差があることや、負の連鎖が始まる臨界点を超えないようにとの考えがあります。しかし、すでに産業革命以前と比べて気温は約1度上昇しています。猶予はもうありません。
気温上昇を1.5度に抑制するために計算されたCO₂の累積排出量の上限の目安を「炭素予算(カーボンバジェット)」といいます。CO₂は放出されると長期間大気中に留まるため、その蓄積量を加味して上限を課さなければならず、ざっくりいえば1.5度の気温上昇に止めるためには、CO₂の排出量を2030年に2010年比で約半分に、2050年には実質ゼロにしなければなりません。この実現のために毎年7〜8%の削減が求められており、これは極めて厳しい数字です。喫緊、かつ大規模に取り組まなければ間に合わない課題なのです。
そうした危機感を共有し、世界はすでに脱炭素化へ向けて動き出し、企業はスピード感を持ってCO₂削減のための取り組みを進めています。この規模感・時間軸に整合する脱炭素ソリューションは今後成長する可能性が高く、投資に値する有望分野でもあるのです。