葛西 リサ
2023年03月01日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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2023年03月01日 |
葛西 リサ |
都市・コミュニティ |
コミュニティ・デザイン |
情報誌CEL (Vol.132) |
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母子世帯を取り巻く環境は厳しく、住宅に窮する親子は多い。一方、空き家の増加とともに広がりを見せているのが、民間企業が運営する母子世帯向けシェアハウスである。ひとり親の居住貧困問題について研究を続けてきた葛西リサ氏が、行政による施策の現状と課題を明らかにし、課題解決の一翼を担う民間の試みを紹介する。
1.増加するシングルマザーの住宅事情と、背景にある社会問題
厚生労働省の調査(2017[*1])によると、母子世帯数は、123.2万世帯と推計されている。そのうちおおよそ9割が離婚等の生別母子であり、その多くが婚姻時の家を出るという傾向がある(葛西2017[*2])。「婚姻時に住んでいた持ち家が夫名義のためそこを出た」、「離婚後、夫が支払っていた家賃額が負担できないため住み替えた」、「育児等手助けを求め実家に戻った」、更には「夫からの暴力や搾取などから逃れるため」など、その転居理由は多岐にわたる。
問題は、婚姻時の家を出たあと、新たな住まいの確保が難しいケースが相当数存在すること、更に、その多くが緊急性を伴っていることである。
人間にとって、住宅は雨露を凌ぐだけの屋根という機能以外に、地域社会との接点という重要な要素を含む。特に、居所を中心に子の学区や保育所等の成育環境は整備されるし、母子世帯向けの手当などの福祉支援も住所地をベースに支給される。とりわけ、学齢期の子がいる家庭については、転居前後で切れ目のない学びを保障することが求められるが、それも住まいが確保できなければ叶わない。
現実には、短期間であっても居所喪失の経験をしている母子世帯は一定数存在し、実家に戻る、親類宅に身を寄せる、知人宅に仮住まいする、行き場がなく「安いビジネスホテルで寝泊まりした」など、見えにくいレベルで不安定居住を綱渡りしている事例も確認されている。なぜ、これほどまでに、彼女らの住宅確保は難しいのか。
行き場を確保するため不動産仲介業者の門を叩くも、生計が不安定なために貸し渋りにあったという声は多く聞かれる。
[*1]厚生労働省、2017、平成28年度全国ひとり親世帯等調査
[*2]葛西リサ、2017、母子世帯の居住貧困、日本経済評論社