宇田川 元一
鈴木 隆
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2023年09月01日 |
宇田川 元一 |
都市・コミュニティ |
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情報誌CEL (Vol.133) |
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「失われた30年」の閉塞状態から抜け出すためには、人と組織のコミュニケーションのあり方を根底から見直すことが必要ではないだろうか。
一人ひとりのナラティヴ(物語)の隔たりを認め合い、変容し合うことでイノベーションも生まれるのではないか。
組織論の分野において、認知科学や心理学、精神療法など、幅広く多様な視点から研究される気鋭の経営学者、埼玉大学経済経営系大学院准教授の宇田川元一さんと共に、人と組織が変わる「対話」のあり方について対話する。
スタティックからダイナミックへ組織の認知や行為の捉え方を変える
宇田川 「対話で変わる人と組織――精神療法を手がかりに」という特集テーマは、実に野心的で驚いています。学問の世界でいう組織論は「組織とは何か」を問い、あるいは組織の作動原理を論じるものなのですが、ビジネスの世界では一般的に組織論という言葉が「部下のマネジメント」くらいの意味で使われている。そのため話が噛み合わないことも多く、私自身は最近、「組織論を研究している」とは言わないことにしているんです。
鈴木 本日は、その学問的な意味での組織論が直面する問題意識や課題を教えていただくところから話を広げ、精神療法とのつながり、そして日本の閉塞状況を打開するために何をすべきか、というあたりまで伺いたいと思います。
宇田川 そもそも、大学時代にカール・E・ワイク[*1]の『組織化の社会心理学』(文眞堂)に魅了されたことが、この分野の研究を志すきっかけのひとつになりました。これはグレゴリー・ベイトソンらの「サイバネティクス」[*2]をベースに、社会心理学で言う組織内の「認知的不協和」を論じた名著です。3年生のときに書店で見かけ、「経営学のコーナーに心理学の本が置いてある」と驚いたのを覚えています。読んでみると面白すぎて、もっと深く知りたいと思いました。
*1 アメリカの社会心理学者、組織理論家。1936年生まれ。「センスメーキング」のほか、「マインドフルネス」「ルースカップリング」など画期的な概念を組織論に導入した。
*2 「舵を取る者」という意味のギリシア語「キュベルネーテース」が語源。自動制御とフィードバックを扱う機械・システム工学の概念だったが、ベイトソンらによって生理学・遺伝学・心理学・社会学などの分野にも広く用いられるようになった。