木ノ下 裕一
栗本 智代
作成年月日 |
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2025年03月01日 |
木ノ下 裕一 |
住まい・生活 |
ライフスタイル |
情報誌CEL (Vol.136) |
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「今の街の景色と古典で描かれる世界は決して乖離しているわけでなく地続きである」
古典芸能の秘めた力を掘り起こし、新たな可能性へとつなげるには、どのような視点や発想が必要なのか。
古典作品がもつ歴史的な文脈を踏まえつつ、現代における歌舞伎上演の可能性を常に発信し、
いま最も注目を集める「木ノ下歌舞伎」主宰の木ノ下裕一さんに、お話を伺った。
栗本 先日、主宰をされている木ノ下歌舞伎の公演『三人吉三廓初買』[*1]を拝見しました。題材は古典ながら、エネルギーあふれる役者さんによる、七五調とラップ調を混在させながらも耳なじみの良い台詞や音楽、和洋折衷の衣装など、現代的な要素を入れつつも原作を忠実に再現されていましたね。非常に楽しく、ストーリーもわかりやすく、怒涛の展開に最後まで目が離せませんでした。
木ノ下 ありがとうございます。木ノ下歌舞伎自体、江戸時代に初演された折の感動や、観客が体感したものを現代に復元したらどうなるか――ということをやりたくて立ち上げたものなので、そう言っていただけると嬉しいです。
栗本 私も、地域の歴史や古典芸能などの物語を、現代の人にわかりやすく伝える「語りべシアター」という取り組みを続けていて、とても刺激を受けました。木ノ下さんは、歌舞伎の舞台となった土地を旅して背景の読み解きを試みたご著書『物語の生まれる場所へ 歌舞伎の源流を旅する』(淡交社)を執筆され、2024年4月からは長野県の「まつもと市民芸術館」の芸術監督団団長に就任されるなど、地域とのつながりや関係性を意識したアプローチを続けておられます。今日は、過去の物語を現代的な視点から伝える試みが、人や地域にどのような影響を与え得るのか、ご一緒に探っていけたらと思っています。
[*1]安政7(1860)年初演。「吉三郎」という同じ名前をもつ若者3人が数奇な運命に翻弄される物語に、商人と花魁(おいらん)の恋を巡る物語が絡む群像劇。作者は七五調の流暢な台詞で知られる河竹黙阿弥(1816〜1893)。木ノ下歌舞伎では、現行の歌舞伎では省かれる廓の話を入れ、さらに安政の初演以来途絶えていた「地獄正月斎日の場」を約150年ぶりに復活して上演している。