龍 亜希
𠮷松 寛子
作成年月日 |
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2025年03月01日 |
龍 亜希 |
住まい・生活 |
ライフスタイル |
情報誌CEL (Vol.136) |
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商店街や街角、学校や福祉施設、モノレールやクルーズ船さえ舞台になる。いわゆる"開かれた劇場"も超え、街のあちこちへ演劇やダンスが「飛び出していく」劇場が北九州は小倉の街にある。貸館や巡回公演をメインにする各地の劇場・ホールが、その存在意義を問われるなか、文化施設としての高いクオリティを維持しつつ、市民と共に新たな価値を創造し、時には地域の課題解決まで行う北九州芸術劇場。その取り組みの数々に、地域の文化芸術が担う役割を考えるヒントがぎっしり詰まった同劇場で、企画・プロデュースの中心的な役割を担われる龍亜希・𠮷松寛子の両氏から、詳しくお話を伺った。
街のあちこちに舞台や芝居小屋をつくったり、学校や福祉施設でアーティストがワークショップを行ったり、高齢者の記憶から生まれた戯曲を毎年のように上演したり……。どれも北九州芸術劇場が媒介となり、表現者、地域のさまざまな団体、そして住民たちが協力して実現してきた企画だ。
さらに、小倉駅ビルの開口部から上空へと滑り出す、近未来的なモノレール。2014年から行われた「日本初のモノレール演劇」のシリーズは、通常ダイヤの合間に運行される特別便で上演されたという、まさに舞台を乗せて空中を疾走する列車だ。観客(乗客)を未知の世界へ誘うように、演者たちは車両の中で歌い踊り、駆け回り、大きな話題を呼んだのは当然だろう。モノレールの運営会社と北九州芸術劇場が力を合わせて実現させた企画は、"街のなかへ出ていく劇場"という新しい「公共劇場」のあり方を可視化するものでもあった。
これらの取り組みは、私たちが「劇場」に抱く固定的なイメージを、心地よく揺さぶる。なぜ、そのようなことが可能になったのか。
「演劇の街」の新劇場に期待された使命と役割
ご自身も地元・北九州市で生まれ育ったというプロデューサーの龍氏はまず、舞台芸術を観たり演じたりすることの好きな人が多い――そんな「演劇の街」としての土壌から語りはじめた。「北九州工業地帯に立地する大企業や労働組合では、古くから演劇サークルをはじめ、歌や踊りといった表現活動が盛んに行われていたようです。