弘本 由香里
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2009年03月19日 |
弘本 由香里
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都市・コミュニティ |
地域活性化 |
情報誌CEL (Vol.88) |
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はじめに
人口の都心回帰が見られる一方で、地域力の弱化も静かに進行している。背景には少子高齢化や社会・経済のグローバル化を背景にした、世帯の小規模化や多様化と、それらがあいまって引き起こされる地域での暮らしの孤立がある。そこで改めて注目を集めているのが、地域における「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」の力である。ソーシャル・キャピタルとは、信頼や規範によって支えあうネットワークや生活文化とでもいうべきものである。
そのような社会の動向と課題を探りながら、当連載では一貫して、個人と地域の関係を結び直すための、地域資源を活かしたコミュニティ・エンパワーメントのあり方を問い続けてきた。そして、当連載第12話〜14話では具体的な場を活用した実践研究として、大阪の都心部・上町台地に立地する大阪ガス実験集合住宅NEXT21での、地域コミュニケーションデザイン実験「U-CoRoプロジェクト」(※1)の始動期の概要と評価をレポートしてきた。
第12話では、U-CoRoプロジェクト1年目のプログラムとして取り組んだ、建物1階小スペースのガラス・ウォール(ウィンドウ)を活用した、地域資源にまつわる3つの展示と関連イベントを紹介している。続く第13話・14話では、U-CoRoプロジェクト1年目の段階における、NEXT21入居者へのアンケート調査と、展示やイベントに協力くださった地域の方々等へのヒアリング調査の結果から、地域資源と人的資源の交流を促すコミュニティ・エンパワーメントの可能性について考察している。
始動期の2つの調査から、展示やイベントのプロセスに関わり情報提供の主体となった場合には、新たな思考や行動、ネットワークの拡張の兆しが生まれやすいのに対して、主として情報の受け手のみの立場にある場合には、意識の変化の次の段階に至る前に見えないハードルがあることを推察することができた。情報の受け手から情報提供の主体への転化を可能にする、インターフェイスとしてのプロセスを創造していく必要性を認識することとなった。
U-CoRoプロジェクト2年目のプログラムでは、1年目の評価をふまえて、プロジェクトの背景やプロセスの可視化による関心の喚起と、参加のインターフェイスとコミュニケーション手法の多様化による能動的な関与の可能性の拡大を、新たな仕掛けとして組み込んでいる。今回第15話では、2年目のプログラムの中から、第5回「上町台地となにわ伝統野菜物語」(2008年5月19日〜8月29日〈※9月12日まで展示延長〉)のウィンドウ展示と連動企画を核にしたネットワーク拡張の仕掛けについて紹介しながら、一連の動きが物語る意味を考えていきたい。