黒岩 比佐子
2008年06月30日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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2008年06月30日 |
黒岩 比佐子 |
住まい・生活 |
食生活 |
情報誌CEL (Vol.85) |
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村井弦斎という名前を聞いて、すぐに思い当たる人は、かなりの近代文学通でしょう。村井弦斎は明治中期から大正期に活躍した作家で、晩年は食物の研究に没頭し、多くの著作があります。特に、一九〇三(明治三十六)年に新聞連載された『食道楽』は、単行本も飛ぶように売れて、明治を代表するベストセラーの一つになりました。
なぜ『食道楽』という小説は、それほど人気を博したのでしょうか。それは、小説のなかに和洋中にわたる料理が六百種以上も登場し、その一部は作り方まで説明されるというユニークな趣向が読者に歓迎されたからでした。当時の庶民にとって西洋料理は、まだ高級なものだったので、文中に登場する料理の名称は憧れをかきたてたことでしょう。ステーキ、シチュー、スープ、サラダ、デザートの数々。世界三大珍味のキャビア・トリュフ・フォアグラまで出てくるのには驚かされます。さらに『食道楽』では、ナイフとフォークの使い方やスープは音をたてずに飲むことなど、テーブルマナーまで紹介されています。
『食道楽』の主人公の大原満は名前が示すとおり、腹が突き出た、いわば元祖” メタボ男“です。その大原の食生活を改善する役割を果たすのが、美人で料理が得意なお登和。『食道楽』は、この二人の結婚話をめぐって展開していきます。