弘本 由香里
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2008年01月10日 |
弘本 由香里
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都市・コミュニティ |
都市居住 |
情報誌CEL (Vol.83) |
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はじめに
今、マクロな人口構造として、少子高齢社会、人口減少社会は現実のものとなって現れ、ミクロな社会現象として生活の個人化が急速に進んでいる。個人化が進む社会と暮らしは、孤立化というリスクと背中合わせである。他者や地域との関係性の希薄化は、個人のアイデンティティ確立の難しさ、生命の連続性の実感の乏しさ、多世代・多文化間のコミュニケーションの断絶、それらがあいまってソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の弱化を引き起こす。
さらに視野を広げてみると、環境問題の深刻化や社会・経済のグローバル化は、対立する価値観を調整し、経済・環境・社会(地域・文化)の調和による持続可能な社会・生活システム、ソーシャル・キャピタルの必要性を強く迫ってくる。個人化が極度に進み、ソーシャル・キャピタルの弱化が加速するのと裏腹に、ソーシャル・キャピタルの形成が社会の持続可能性のために不可欠の条件として問われてくるという、皮肉な現実に現代の生活者は直面している。
そのような社会背景を踏まえて、当連載では、大阪の都心部・上町台地界隈をフィールドに、地域課題の把握と問題解決に向けた数々の協働的実践を紹介してきた。これまで繰り返し述べてきたとおり、上町台地界隈には特有の歴史の蓄積とともに、さまざまな地域資源・地域活動の魅力的な集積がある。一方で、急増するマンション立地と新住民の増加、世帯の小規模化などを背景に、個々の暮らしの孤立化や地域コミュニティの弱体化といった課題が浮かび上がってきつつある。こうした課題に対して、地域資源・地域活動の集積そのものを活かしていくことで、有効に機能するコミュニケーションデザインを仕掛け、これからの住まい・暮らし・まちづくりに貢献する社会実験ができないだろうか、といった目的意識のもとに、上町台地上に立地する大阪ガス実験集合住宅NEXT21(※1)の第3フェーズ居住実験(二〇〇七年から五年間を予定)の一環として、地域コミュニケーションデザイン実験に取り組むこととなった。
当連載第12話では、実験集合住宅NEXT21(以下、NEXT21)に導入した新たな試み、地域コミュニケーションデザイン実験の開始から現在までの始動期の実践内容について簡単に紹介することとする。