豊田 尚吾
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2007年09月30日 |
豊田 尚吾
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住まい・生活 |
ライフスタイル |
情報誌CEL (Vol.82) |
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はじめに
八月中旬、米国のサブプライムローン(Subprimelending)(※1)問題に端を発した世界的な金融市場の混乱は、日本の株式市場にも大きな影響を与え、八月上旬には一万七千円前後で推移していた株価(日経平均)が、一時は一万五千二百円台にまで下落した。同じく八月上旬には一ドル一二〇円近くあった為替相場も、数日後には一一一円台に(円が)急騰した。各国当局の対応により、八月下旬時点で、この混乱は一服したように見える。しかし、先行きに関してはさまざまな見方があり、まだ混乱の種は解消していないようだ。
問題は、多くの生活者にとって、これが間接的な影響にとどまらず、自らの資産を大幅に減らす事件となったことだ。いうまでもなく、長期にわたる低金利政策の影響で、家計の金融資産は、株式市場や為替市場(FX取引)(※2)、投資信託などに流入していった。つまり、生活者は、より多くのリターン(運用益)を求める代償として、リスクを甘受する決断をしたということだ。成熟した経済社会の中で、リスクなしでリターンを得ることができなくなるというのは、説得力があり、そのお金の流れ自体は悪いことではない。
問題は、生活者に、そのようなリスクを取るリテラシーがあったのかということである。今回も少なからぬ生活者が大きな損失を被った。「リスクとはそういうものだ。やむを得ない」と納得できるのであればそれでよい。しかし、もし大切な財産の多くをなくしてしまったり、極端な場合、借金を背負ったりして、「こんなはずでは…」と後悔する人が多いとすれば、得ておくべき生活リスクマネジメントのリテラシーが不足していたということになる。ネットの掲示板やブログからの情報だけでなく、ある証券会社の試算にもあるように、最低限の知識で安易に金融市場に参入し、大きなリスクを取っていた人が、一定数いたことは間違いない。
筆者は、「生活経営」という視点から、生活リスクのマネジメントを実現するためのリテラシー取得の努力が、生活者に必要であると再三主張してきた。これは本誌の特集テーマである「持続可能性と生活満足」に直結するものと考えている。それは時代の流れに安易におもねることなく、自らの生活管理能力を着実に高めていく日々の努力こそが、持続的な生活満足向上に資するという考え方に他ならない。
今回の件で、過度に萎縮し、生活リスクをかたくなに拒絶する方向に急転換してしまうことは望ましくない。逆に、不幸な事例をすぐ忘れてしまっても意味がない。喉もと過ぎれば…になる前に、生活管理能力に関するリテラシーを取得することの重要性を認識し、生活経営のための武装をしておくことの必要性を、はじめに訴えておきたい。