弘本 由香里
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2007年06月30日 |
弘本 由香里
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都市・コミュニティ |
都市居住 |
情報誌CEL (Vol.81) |
都市居住の主体を育む地域資源データベースと地域ガバナンス |
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はじめに
少子高齢化の進行とともに、人口の都心回帰が活発化している。その一方で、マンション立地と新住民の増加は、水平型コミュニティの減少と、地域力の弱化という問題を内包している可能性がある。さらに、世帯の小規模化や世代間のコミュニケーション・ギャップなど、個人と地域のつながりが失われやすい状況の中で、暮らしの孤立化に拍車がかかっているのではないか。といった、これからの暮らしをめぐる懸念に向き合ったとき、市場のサービスだけではカバーしきれない、メンタルな安全・安心を支えるヒューマン・ネットワークの必要性がリアルに浮かび上がってくる。とりわけ都心部では、流動性の高さや資源の集積という特徴を前提に、人と暮らしとまちをつなぐ場や仕組みを地域の中に組み込んでいく「コミュニケーションデザイン」が求められているのではないかと考えられる。
こうした思いのもとに、前回(第一〇話)は、京都大学大学院工学研究科高田・神吉研究室および大阪市立大学大学院生活科学研究科三浦研究室と大阪ガス(株)エネルギー・文化研究所(筆者所属)による、少子高齢社会における都心居住の実態とあり方に関する合同調査研究プロジェクトの一環として、高田・神吉研究室が調査主体となって実施したアンケート調査「大阪都心部に居住する子育て世帯・高齢者介護世帯の地域との関わりに関する調査」の結果を簡単に紹介した。調査を通し、地域資源を活かした参加の場づくりなどによって、ヒューマン・ネットワークの構築を支援し、暮らしの孤立化を防いでいくことの重要性を改めて認識することとなった。
現在、新たに子育て層として都心部に流入してきている層、あるいは医療・福祉施設の充実を求めて都心部に移り住んでくる高齢者層の多くは、地域におけるヒューマン・ネットワークの構築に必ずしも長けているとは言いがたい。地域資源を介して育まれるヒューマン・ネットワークの存在が、高齢者介護世帯や高齢者そのものの暮らしの孤立化を防ぎ、安心感や生活の質の向上に大きく寄与するものと考えると、地域資源との関わりが乏しいまま年を重ねることは、近い将来、生活上の大きなリスクにもつながりかねない。地域の有形無形の資源を使いこなし、他者との関係を築き合うことのできる都心居住の主体を育てていく場や仕組みづくりが、将来への投資として不可欠と考えられるのである。